5月24日12時6分配信 産経新聞
バスの車内で乗客が転ぶなどして、けがをする事故が後を絶たない。負傷者の過半数は65歳以上の高齢者。高齢者の場合、走行中のちょっとした揺れや減速でバランスを崩し、転倒するケースも少なくない。関係者は、バスが停車してから離席するなど「ゆとり乗降」を呼びかけている。(中曽根聖子)
◆「迷惑かけたくない」
国土交通省によると、バスの車内事故は平成12年から増加傾向にあり、18年には過去最多の1283件を記録。負傷者は約1500人に上り、年齢別では65歳以上が794人と過半数を占めた。重傷者の約8割が高齢者だ。
事故発生状況で最も多いのが、「発進時」と「急停止」。特に目立つのは、停留所からバスが発進する際に体を支えられず、床やステップに転倒するケース。「特に体力や筋力が衰えている高齢者の場合、転んだだけで手首や大腿(だいたい)骨骨折など、大けがにつながることもある」と、日本バス協会技術部の小沼洋行課長は指摘する。
また、高齢者は降車に時間がかかるため、周囲に迷惑をかけまいとバス停到着前に席を立ち、走行中に通路を移動することが多いという。このため、減速時にバランスを崩して転んだり、手すりにぶつかって胸や頭を強打したりする事故も少なくない。
◆カメラで安全監視
こうした事態を受け、事業者側も本格的な事故防止策に乗り出している。大阪市交通局は昨年1月から順次、市営バスの全車両に「ドライブレコーダー」を導入。レコーダーは走行中の車内外を2台のカメラで常時記録し、画像や音声を保存する。そのデータを事故原因の分析や乗務員教育に活用するのが狙いだ。
実際、20年度上半期の車内事故は25件と前年同期に比べ、半減。交通局安全運行サービス担当の福島裕一係長は「カメラという外部の目があることで、乗務員の安全意識が大幅に向上した」と話す。
協会も毎年7月、全国のバス会社と連携して、車内アナウンスやポスター掲示による事故防止キャンペーンを実施。乗客が着席してから発車する「ゆとり運転」の周知徹底などを呼びかけている。
◆自分を守る注意も
ただ、乗務員が安全運行に努めても路上を走るバスの場合、前方車の急停止や割り込み、子供の飛び出しなど急ブレーキが避けられない事情もあり、乗客自身が自分の身を守る注意も必要だ。
買い物袋やバッグで両手がふさがっていることも、手すりやつり革をしっかりつかめないため、危険だ。特に高齢者は、ちょっとした揺れや減速でも転倒しかねないので片手は空けておきたい。両替のため走行中に移動する人も多いが、降りる際はバスが完全に停車してから席を立つよう心掛ける必要がある。
バス事業者らの取り組みもあり、19年の最新統計で事故件数はやや減少した。小沼課長は「今後とも事故防止に努めていく。利用者にも、高齢者があせらず乗り降りできる思いやりとゆとりの心で協力をお願いしたい」と話している。
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■バスの車内での注意点
・走行中は席を立たない。
・バスが完全に停車してから降車口へ向かう。
・(満席で立っている場合)手すりにしっかりつかまる。急制動に備えて、立ち位置より進行方向後ろ側の手すりなどにつかまるようにする。
・運転中の運転者にはみだりに話しかけない。
・高齢者や障害者が乗車したら席を譲る。
・バス停以外の場所で乗り降りを依頼しない。
(国土交通省の資料から作成)