車窓からアルプスの雄大な眺めが楽しめる、中高年に人気のツアーが暗転した。23日、スイス南部で起きた観光列車「氷河特急」の脱線事故。夏休みの旅行シーズンが始まった矢先で、多数の日本人客も巻き込まれた。
スイス・ローザンヌにあるヴォー州立病院の広報担当者は24日、朝日新聞の取材に対し、「意識不明の重体の女性が1人、現地時間の23日午後3時半ごろ、事故現場からヘリコプターで搬送されてきた」と話した。女性は搬送直後に約4時間の腹部の手術を受け、その後は集中治療室で治療を受けているという。依然として意識がないといい、「手術によって容体は安定したが、けがは重く、予断を許さない状態だ」と話した。
事故現場から車で約30分の町、フィスプ。中心部にあるバレー州立中央オーバーバリス病院には事故でけがをした日本人数人が入院中。列車に乗り合わせた観光客は24日未明(日本時間同午前)、地元テレビの取材に対し、「日本人たちは血まみれだった」と証言し、突然の惨事に震えていた。
バレー州警察当局のボルネ報道官は23日午後11時(日本時間24日午前6時)、朝日新聞の取材に対し、負傷者42人のうち日本人の人数については言及を避けたが、重傷者は10~12人と答えた。
地元テレビに対し、列車に乗っていた初老の女性観光客は「ひどい惨事だ。私たちの車両は大丈夫だったが、後続車両の人はみんなけがをしていた。まだ、震えが止まらない」と話した。
別のスイスのテレビ局の映像によると、無事だったドイツ人女性は「急ブレーキがかかったように感じた。2度がくんとして、車内の物がすべて下に落ちた」と車内の様子を説明。スイス人男性は「転倒した車両を見て本当にショックだった。救出に行きたかったが、近づかないほうがいいと乗員に言われた」と話した。
「氷河特急」の運行会社広報担当者は24日、朝日新聞の電話取材に対し、「開業以来、最悪の事故。原因はまだ分からず、警察の調べを待っているところだ」と話した。(稲田信司=フィスプ〈スイス南部〉、松井健=ベルリン、渡辺志帆)