「介護事故」の定義を明確に―日本介護福祉士会

5月28日17時17分配信 医療介護CBニュース

 介護現場で、事故や「ヒヤリ・ハット」の実態が正確に把握できていない可能性が高い―。日本介護福祉士会(石橋真二会長)はこのほど、会員に対して行った介護事故などに関する調査報告書をまとめ、こんな実態を明らかにした。回答者の約半数が、勤務する介護現場で過去1年間に発生した介護事故は「0件」としており、事故と「ヒヤリ・ハット」の分類が不適切な事例も多数あったという。同会では、介護事故や「ヒヤリ・ハット」の定義があいまいで、現場で共有できていないことが一因だと分析している。

 調査は昨年12月、同会の会員5000人に対して実施した。有効回答は732人から得られ、うち介護現場で働くのは536人。調査票の作成や結果の分析は、介護現場の安全管理に詳しい学識経験者や弁護士、現場経験のある管理者など6人から成る検討委員会が行った。

 報告書によると、勤務先の介護現場における過去1年間の介護事故の有無を尋ねたところ、「0件」が48.3%で、「1件以上10件未満」は20.7%。「ヒヤリ・ハット」では、「0件」が34.5%、「1件以上10件未満」が12.7%だった。報告書は「現場での事故や『ヒヤリ・ハット』は、実際にはもっと発生しているだろう」「数値の妥当性が疑われる」と指摘している。
 また、入所系の生活施設と通所施設、訪問系サービスなどの業態別でも、回答内容に差があり、訪問介護などの訪問系事業所では、事故や『ヒヤリ・ハット』の報告件数が少なかった。しかし、報告書は「入所系であれ、訪問系、通所系事業所であれ、利用者の状態像に応じて、同じ確率で発生しているのではないか」としている。

 また、「ヒヤリ・ハット」として報告された557件のうち、委員会の検討の結果、事故に分類すべきと判断されたものが198件(35.5%)あった。苦情などの内容で、「ヒヤリ・ハット」に分類するのが「不適切」と判断されたケースも18件(3.2%)あり、実際に「ヒヤリ・ハット」に分類するのが適切とされたのは61.2%(341件)だった。さらに、過去1年間の「ヒヤリ・ハット」の有無について、無回答が40.3%あったことから、「約4割の人は発生を把握していないとも解釈できる」としている。

 介護事故や「ヒヤリ・ハット」の報告件数が予想より少なく、分類に「不適切事例」があった理由については、▽事故や「ヒヤリ・ハット」は「起こしてはならないこと」「突発的なこと」との意識が働き、介護者や施設・事業所側が意識的あるいは無意識に無視したり、見落としたりした▽事故や「ヒヤリ・ハット」の定義・概念があいまいで、介護者や施設・事業所側が正確に把握できていない▽施設や事業所内で事故や「ヒヤリ・ハット」の情報が共有できておらず、介護者が発生の実態を把握できていない―ことが考えられるとした。

■定義の明確化が課題
 日本介護福祉士会は調査結果から、介護事故の定義を明確にし、報告書の様式などを標準化することが、今後の事故防止の上で重要だと指摘。
 その上で、「利用者の身体上の損傷の程度や外傷の有無にかかわらず、転倒や転落、誤嚥といった事実が発生した場合に、介護事故として定義する。ただし、明らかに、契約上の結果の予見性や結果の回避義務において、想定される社会通念上の範囲で定義することとし、それ以外に発生した場合までを介護事故と定義するものではない」ことを提案している。

 「ヒヤリ・ハット」については、「語義として大変幅のある表現」で、あいまいさが払拭できず、回答でも「あいまいさそのものが報告されている」と指摘。その上で、「ヒヤリ・ハット」という表現を今後使用せず、「インシデント」に統一することを提案している。「インシデント」の定義については、「介護の質を向上させるために不可欠な手順や技術の標準化の立ち遅れ、手順やマニュアルを作成してもそれを忘れる、飛ばす、無視するというような手順忘れ、手順間違い、手順飛ばし、あるいは明らかに裏マニュアル化するなどによる不適切な対応を含むもの」としている。

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