5月10日12時1分配信 毎日新聞
◇「自然熟成豚は安心です」--長谷川光司さん(58)
配合飼料などを使わずに「自然」にこだわった豚や鶏の飼育をしているのは、農薬散布による健康被害に苦しんだためだ。
鰺ケ沢町北浮田でリンゴ農園を営む父が葉タバコ生産に切り替えた際、22歳だった長谷川さんは、勤めていた千葉県の建設資材製造会社から呼び戻された。約3ヘクタールのタバコ畑に、夏はランニングシャツで殺虫剤を散布した。10年がたったころ、吐き気やめまいなどがするようになり、風呂場で転倒した。農薬被害が言われたころで、タバコ減産政策が取られたこともあり、約15年でタバコ作りはやめた。
農薬を使わない安全な食べ物を自分たちで作って食べようと思うようになった。元々卵が好きで、昔のうまかった味を思い出した。そんな時に自然飼育を記した「自然卵養鶏法」(中島正著)に出合った。
本で提唱していた発酵飼料などを参考に、おからや米ぬか、腐葉土、海水などを混ぜ、炭にしたもみ殻を入れて飼料を作った。手を入れると熱い60度以上に発酵した。鶏の飼育は85年ごろからで、その6年後には豚も始めた。豚はフンを堆肥(たいひ)に利用するためだったが、肉質の評判が高まり、今は豚が主力となり、豚750頭、鶏800羽を飼っている。
豚肉は東京や大阪などのホテルにも納入され、弘前市や青森市のスーパーやデパートでも販売。イトーヨーカドー弘前店では、「安心・安全の自然熟成豚」のシール付きで精肉売り場に並んでいる。同店は「一般的な国産豚より少し値は張るが、一度食べるとうま味が違うというお客さんが多い」と話す。
餌には、ゆでたジャガイモとニンジン、パンの耳や野菜などを使用。長谷川さんは「普通の豚は約半年で出荷するが、うちは10カ月かける。発酵飼料と人間が食べる物に近いエサを与え、じっくりと愛情を込めて育てる」と強調する。狭い豚舎で多数飼育する「密飼い」はせず、床にもみ殻の炭を敷くためか、ほとんどにおいはない。堆肥は、ジャガイモなどをくれる農場などに無償提供している。
最近の新型インフルエンザでは食肉は問題ないとされているが、風評被害は怖い。しかし、長谷川さんは「自然の力で育てた健康で安全な豚。まったく心配していないし、風評被害もない」と自信を持っている。【塚本弘毅】