ジャンプで衝突は「予測外」 スノボ男性に無罪判決

スキー場でスノーボードでジャンプした際、着地点にいた女児(当時9)に衝突して重傷を負わせたとして、重過失傷害罪に問われた会社員の男性(24)=香川県観音寺市=に対する判決が12日、松山地裁であった。村越一浩裁判長は「滑走開始時点における一応の注意義務は果たしており、重過失は認められない」などとして無罪(求刑禁固10カ月)を言い渡した。

 判決によると、男性は2006年2月、愛媛県久万高原町の美川スキー場に設置されたジャンプ台(幅2.5メートル、高さ0.7メートル)で宙返りジャンプをした際、着地点付近で倒れていた女児に衝突。女児は四肢に運動障害が残る脊椎(せきつい)損傷の重傷を負った。

 判決は、男性にジャンプ台下方に人がいないか注意を払う義務があったと認めたうえで、男性の前にいたスノーボーダーらがあまり間隔をあけずに次々にジャンプし、男性の直前に飛んだスノーボーダーが着地後にジャンプを止めるような合図を出していないことを男性は確認しており、「男性がジャンプをしても問題ないと判断しても無理からぬ面もある」と指摘した。

 さらに、事故が起きたのは、前のスノーボーダーのジャンプ後に、女児が転倒してジャンプ台の下で止まったという「予測外の事態」の発生が原因とした。

 松山地検は「意外な判決結果であり、判決内容を検討した上で、適切に対処したい」とコメントを出した。(伊藤喜之、田中誠士)

はがき随筆:4月度 月間賞に野崎さん 佳作は井手田さん、高山さん /宮崎

4月と言えば行く春を惜しむ候と決まっていたものですが、今年はご存知のように春を飛び越して夏が来、冬に逆戻りをしたような寒さになり、またすぐに夏の暑さに悲鳴をあげる異常気象の連続でした。そのせいか季節の移ろいや花などに触れた作品がきわめてわずかでした。父や母や子たちの家族の思い出をつづった感傷的な作品が多くなり、とりわけ母の日を意識してか、母を描いた作品に秀作が目立ちました。

 一般に感傷的という言葉は最近ではあまりよい意味では用いませんが、私は文学の根底には必ず感傷や哀傷がなければならない大切なものだと思っています。例えば「源氏物語」は「あはれ」の文学であるという評価は常識ですが、胸の奥底からこみ上げてくる悲哀の感情をあはれというので、私たち日本人には深くなじんだ言葉なのです。問題は感傷におぼれることなく感傷をみつめ、自己の認識を深く意識するところから言葉を発することにあります。その点で、あと一歩なのにと残念な感じを受けた作品が散見されました。

 1次審査に残った作品が17で3次に残った作品が実に13でした。それほど拮抗(きっこう)していたのです。夕方から始めて深夜3時に及ぶ、今まででもっとも長い時間の選考でした。

 さて、月間賞に輝いたのは野崎ミチノさんの「尻もち」でした。年を重ねると一番怖いのは転倒です。頭を打って死に至らずとも、骨折したりすれば寝たきりになりかねません。その恐怖の中でしばらく立ち上がれずにいた時の描写が見事です。ただ「痛みは少しある」という一文は「は」を「が」にするだけで不安感の表現がずいぶん違ってきます。検討してみてください。

 佳作は井手田洋子さん「お釣り」と高山裕美さん「母」です。

 「お釣り」は、息子が僕は男や、おつりなんかいらないと大人をまねて見えをきった話を瀟洒(しょうしゃ)な筆遣いで描いた作品ですが、導入部分でずいぶん損をしています。「小学生のころの次男の話である」と単刀直入に書けば最後の一文の表現も変わっていたはず。

 「母」は自宅介護ができなくなって施設に入所させた母が、けがで寝たきりになった責任と後悔を思う簡潔でかつ美しい文章ですが、最後がそれこそ感傷的すぎてその思いが十分に伝わってこないのが惜しい。

 佳作候補に最後まで残ったのは、俳句で感情を吐露した野田正子さん「雨の夜に思う」▽同居する母を励ます磯平満子さん「大丈夫!」▽昨年10月の月間賞「かなわなかった足への思い」の続編「あのころ」を書いた阿満サイさん▽夫婦の穏やかになってゆく日常を書いた「今日このごろ」の白石光子さんでした。

 興梠英樹(文芸誌「遍歴」同人)

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 野崎さんの月間賞作品を巡るインタビューは、30日(日)午前8時からのMRTのラジオ番組「潤子の素敵に朝!」の中で放送予定です。

 また、MRTのラジオ番組「宮崎ほっとタイム」(月~金曜午前10時10分から5分間)で、はがき随筆の作品を女性アナウンサーが朗読しています。掲載作から週に3、4本が選ばれ、放送されます。ご期待下さい。

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 ■月間賞作品

 ◇尻もち--宮崎市清武町・野崎ミチノ(74)
 石段を降りている時、足がツルーッ、ドッシン。「やったぁ」と思った時には尻もちをついていた。石段と並行して流れている小川のせせらぎだけが大きく聞こえ、頭の中は水の落ちる音の世界だった。どのくらいの時が過ぎただろうか。立ち上がるのが怖かった。歩けるかな。頭を打っていたら、と考えると、冷や汗ものだった。ゆっくり、ゆっくり立ち上がった。痛みは少しある。帰って薬をつけ、直立不動の姿勢でベッドにもぐり込んだ。いろいろ考えても仕方がないか。このくらいで済んだから良かった。もう年のせいかな、と一人苦笑い。

介護施設事故死 4年で48人

「誤嚥」が75% 職員研修強化へ
 県内の介護保険施設・事業所で2005~08年度の4年間に、事故で計48人が死亡していたことが、県の調査でわかった。食べ物が気管に入って詰まる「誤嚥(ごえん)」による死亡が目立つことから、県や業界団体は、事故防止に向けた職員研修に力を入れる方針だ。

 県高齢福祉保険課によると、死因別では、食べ物がうまくのみ込めずに気管に入り込み、窒息状態になる「誤嚥」が36人で75%を占めた。そのほか、入浴時に浴槽でおぼれた事故が2人、感染症、転倒、交通事故でそれぞれ1人、自殺や施設からの転落など「その他」が7人だった。

 施設・事業所の種類別では、グループホームが14人と最も多く、続いて特別養護老人ホーム9人、通所介護事業所8人、老人保健施設6人などとなっている。年度別では、05、06年度が各12人、07年度が14人、08年度が10人だった。

 各施設・事業所は、誤嚥が起きた際、食べ物を吐き出させたり、吸引したりする応急処置を職員に指導している。だが、県内の施設関係者によると、対応が間に合わないケースや、そもそも体が弱っている高齢者も多いため、死亡につながりやすいといった事情がある。

 県老人福祉協会の中山辰巳会長は、「要介護高齢者は一般に、のみ込む力が弱くなっているため誤嚥の確率が高く、完全に防ぐことは難しい。施設・事業所ごとに緊急時の対応力を高めるしかない」と強調する。同協会は04年度から年1回、誤嚥への対応などについて研修を実施。今年も9月に開催する予定だ。

 また、県認知症グループホーム協会も今年度、誤嚥事故防止の研修を検討している。県も引き続き、事故防止の徹底を施設や事業所に呼びかけていく方針だ。

 要介護高齢者の食の問題に詳しい社会福祉法人「宏仁会」(平内町)の長根祐子理事長は、「口の中のケアや首の運動など、高齢者がのみ込む力を維持するための取り組みを、施設・事業所の活動の中に取り入れることも必要だ」と指摘している。

(2010年5月11日 読売新聞)

助演女優賞の八千草薫は負傷欠席

「日本映画批評家大賞授賞式」(7日)

 「ディア・ドクター」の演技で助演女優賞を受賞した女優の八千草薫(79)が、脚のケガのために授賞式を欠席した。所属事務所によれば、3月中旬にドラマのロケ中に転倒し、右ひざ皿を打撲。現在も水がたまり、痛みがあるという。5月中旬から映画撮影を控えており、大事を取ったという。会場では「痛み止めを打ってまで出席を楽しみにしていたけど、スタッフに止められました」とコメントが発表された。

フィギュアのジャンプ規定を変更 浅田、高橋らに追い風

【ロンドン共同】国際スケート連盟は6日、フィギュアのルール変更を発表し、浅田真央(中京大)が武器とするトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)や、男子で高橋大輔(関大大学院)らが跳ぶ4回転ジャンプの基礎点を引き上げるとともに、回転不足と判定されたジャンプでも基礎点の70%を与えることになった。高難度の技への挑戦を評価する狙い。

 基礎点は3回転半で8・2から8・5に、男子で最も多くの選手が跳ぶ4回転トーループは9・8から10・3に増え、転倒や着氷の乱れによる減点幅も狭まった。

 回転不足は新たに2段階で判定し、1/4~1/2回転足りないものは基礎点の70%を与え、1/2回転以上足りないものは、これまでと同様に1回転少ない基礎点となる。3回転半の場合、これまでは成功と紙一重でも2回転半の基礎点3・5に激減したが、新規定では6・0になる。

段差舗装 賛否二分

◆「多摩川サイクリングロード」に調布市設置

 多摩川沿いの河川敷を通る通称「多摩川サイクリングロード(多摩サイ)」で調布市が新たに設けた段差舗装が議論になっている。歩行者との接触事故が絶えないため、自転車の速度を抑制しようと3月下旬に設置された。歓迎の声が上がる一方、自転車愛好家らは反発。調布市も「本来はマナーの問題だが、何もしないわけにはいかない。苦肉の策」と強調する。
(杉浦幹治)

 4月下旬、借りた自転車にまたがり、現場に行ってみた。高さ2センチ、幅10センチの段差舗装が2メートルおきに連続5段あった。実際に自転車で乗り越えると、前カゴに入れたカメラバッグが飛び出そうになる。ただゆっくりこぐと衝撃は小さい。こうした段差は、調布市多摩川4~7丁目の約1キロに8カ所設けられた。費用は180万円という。

 多摩サイは、大田区から羽村市あたりまでの多摩川沿いの道。自動車が入らず、眺めもいいため、都内外から利用者が集まる。特に土日は、自転車やランナーのほか、散歩の高齢者やピクニックの親子などでにぎわう。

 競技用の自転車が走ることも珍しくない。散歩していた男性(84)は「数年前は速い自転車はたまにしか見なかった。最近は時速40キロぐらいのスピードで歩行者の間を縫うように走っていく」と話す。

 段差舗装は、昨年6月に多摩サイの府中市側で起きた死亡事故がきっかけだった。自転車が歩行者にぶつかり、歩行者が亡くなった。府中市は自転車の速度抑制のため、高さ数ミリの段差舗装をしていたが、それでも事故は起きた。

 調布市道路管理課によると、07年1月から09年3月までに市内の多摩サイで起きた事故は19件にとどまるものの、「これは氷山の一角。『危ない』などの苦情も月数件ある」という。調布警察署とも相談し、「他に例を聞かない」という高さ2センチの段差を付けることにした。

 世田谷区で自転車用の服の企画を行っている藤原敏洋さん(29)は段差に批判的だ。「パンクや転倒を起こしかねない高さ。逆に危なくなった」と訴える。藤原さんは月に1回程度、多摩サイに通っているが、「車いすやベビーカーも通るのに、その人たちも締め出す措置だ」と怒る。

 一方で歓迎する声もある。近くで自転車屋を営む石坂正一さん(63)は「我が物顔で飛ばし、歩行者に『どけ』と怒鳴る。怒って画びょうをまいた人もいた。段差はやむを得ない」。

 河川敷のグラウンドで少年野球の指導をしていた男性(45)は「河川敷のグラウンドには子どもも大勢来る。自転車には注意させているが心配だ」と話す。その上で、今回の措置に対しては「実際には、自転車は段差の脇を通っていくので効果が薄いように見える。うまくすみ分けられないだろうか」と疑問を投げかける。

安心・安全ナビ:強風が吹きやすい春。我が身を守るには。

◆強風が吹きやすい春。我が身を守るには。

 ◇範囲狭いが軽視禁物 台風並み威力の場合も
 ◇低気圧接近…注意報、警報に注意を
 「春の嵐」という言葉があるように、春は強風が吹きやすい季節。しかし、台風のように広い範囲に被害をもたらすことが少ないこともあり、その脅威は軽視されがちだ。

 3月20日、北九州市内の無人有料駐車場で、女性が首から血を流して倒れているのが見つかった。この日の同市の最大瞬間風速は23・5メートル。女性は強風で壊れた料金支払機の屋根に直撃され、死亡したとみられている。

 また、4月2日には千葉市で最大瞬間風速32・9メートル、東京都江戸川区で同28・4メートルを観測するなど、関東地方南部を中心に強風が吹き荒れた。空の便に欠航が相次ぎ、鉄道のダイヤも大幅に乱れた。神奈川、千葉両県のまとめによると、転倒や飛散物にあたるなどして計30人以上がけがをしたという。

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 春の強風というと、春一番が真っ先に思い浮かぶ。気象庁によると、春一番は日本海を発達しながら通過する低気圧に向かって、南から暖かい空気が流れ込んで起きる。春に起こる強風のメカニズムは基本的に、春一番と同じだという。春一番は元々漁師などに恐れられていた風で、言葉が生まれた場所との説がある長崎県壱岐市によると、16世紀後半に漁師53人が春一番とみられる強風で犠牲になった記録が残っているという。

 強風災害の調査などを行う有識者の集まりである風災害研究会がまとめた「瞬間風速と人や街の様子との関係」によると、瞬間風速10メートルで傘がさせず、樹木や電線が揺れ始める。同20メートルで転倒する人が出始め、看板やトタン板が外れ始める。同30メートルになると、何かにつかまっていないと立っていられず、屋根瓦が飛散したり、自転車置き場などのひさしが変形する。

 同研究会の会員で、九州工業大の木村吉郎准教授(風工学)は「瞬間風速20~30メートルの風は、大型のテントを20トン以上の力で浮き上がらせることもある」と指摘する。同研究会は風の脅威を広く知らせるため、風災害に関する防災フォーラムを開いているが、木村准教授は「被害を受ける場所が限定的なためか、怖さをあまり意識していない人が多い」と感じるという。

 気象庁天気相談所は「気圧配置を見れば、早い段階から強風が吹くのは予測可能。春の嵐は3~4月が中心だが、メイストーム(5月の嵐)という言葉もある。強風注意報(おおむね平均風速10メートル以上)や暴風警報(同20メートル以上)に注意を払ってほしい」と呼びかける。木村准教授も「気圧配置によっては、春でも台風並みの強風が吹くこともある。とにかく被害に遭わないためには風を甘く見ないことだ」と訴えている。【飯田和樹】

SMAPの上海万博公演に警鐘! 偽企画書を巡るあのチケット騒動

 上海万博からの招待を受け、結成以来初めてとなる海外公演を世界文化センター(上海万博会場内)で行うことが決まったSMAP。90分間を予定するライブは、PRイベント「万博を歌える」の一環で、日本人ゲストとして出演するのはSMAPのみ。しかも「2年前からオファーしていた」とのことで上海側の期待の高さがうかがえ る。

「2008年に嵐がジャニーズで初の上海コンサートを行って話題になりましたが、知名度でいえばやはりSMAPのほうが上。メンバーの出演ドラマがきっかけでファンになった人が多いようです。先日のドラマロケで木村拓哉が上海を訪れた際も、現地のファンが連日ロケ現場に大挙してましたからね。ライブも大盛況間違いなしでしょう 」(週刊誌記者)

 現地のファンはもちろん、「行けない距離じゃない」とばかりに日本からの遠征計画を立てているファンも多いようだ。が、問題なのはチケットの入手方法。

 ジャニーズ側の発表によると、今回のライブ「上海万博 ファンの集い」は万博会場の入場チケットがあれば誰でも鑑賞することができるため、実質ライブチケットは”無料”。その代わり、当日に世界文化センターで整理券を受け取らなければならず、プラチナチケットを巡って大混乱となるのは必至だ。

 20日に行われたリハーサルには、市民20万人が参加。入場者が殺到してイタリア館のガラスが割れたり、転倒して右手首を骨折する人が現れるなど負傷者も相次ぎ、スタート前から安全面が疑問視されている上海万博。世界文化センターの収容人数1万8,000人の中に潜りこむには、相当な気合いを入れていかなければならない。しかし、SMAPのチケットを巡る騒動といえば、思い出されるのがこの事件。

「08年末、上海の複数の民間企業によるチケット詐欺が起きました。『来年4月30日にSMAPが上海万博のプレイベントとして、上海スタジアムでコンサートを行う』というニセの企画書が出回り、実際にネットでチケットを販売。中には1,280元(当時で約1万9,000円)もするチケットを買ってしまった日本のファンもいたようです。 ジャニーズ事務所は『そのような予定は一切ない』と否定し、所属レコード会社のビクターとともに、ファンに向けて警告文を発する騒動にまで発展しました。嵐がコンサートを行った際にも、現地で偽チケットをつかまされ、泣く泣く帰国したファンもいたようです。今回も日本からやってくる熱心なファンを狙って、高額の整理券を売りつける輩が現れるでしょう。それが本物ならまだしも、偽物である可能性もありますから、ファンは用心したほうがいいですね」(同前)

 当日配布の整理券を獲得できる可能性は予想もつかないが、現地住民のほうが有利なのは明らか。不慣れな海外でチケット争奪戦に参加するよりも、ここはおとなしく日本でのコンサートツアー発表を待ったほうが得策かも?

備える:津波対策/2 巨大な水の塊、圧倒的破壊力

北海道奥尻町青苗地区にある奥尻島津波館。93年の北海道南西沖地震による津波で80軒以上の集落が残らず流され、更地となった場所に建つ。館内には、津波に運ばれてきた漁船が陸地に残された写真や、破壊された家の木材が港を埋め尽くす写真などが展示され、年間約2万人の来館者に津波の威力を伝えている。

 こんな威力の津波に巻き込まれたらひとたまりもない。東京大地震研究所の都司嘉宣准教授は「83年の日本海中部地震でも、死者100人の遺体を医師が調べると、内臓破裂や全身の骨を折って亡くなった人がほとんどだった。逃げようとして津波に追いつかれ、地面にたたきつけられたとみられる。津波の怖さはその衝撃の強さだ」と話す。

 津波は風の影響で起こる波と何が違うのか。港湾空港技術研究所(神奈川県横須賀市)の有川太郎・主任研究官は「単純に言えば、津波の方が水の動く量が圧倒的に多い」と説明する。

 有川さんによると、台風による高波の場合、波の山から山までの長さ(波長)は最大でも数百メートルだが、津波は数キロ~10キロと長い。しかも、風による波は海面付近の現象だが、津波は震源地付近の海底地形の変形によって広い範囲の海水全体が短時間に持ち上げられて起きる。津波は巨大な水の塊で、押し寄せた所には長時間力が加わり続けることになる。普通の波と同じ高さでも、力は1000倍、場合によっては1万倍以上になるという。同研究所の実験では、高さ2メートルの津波は、厚さ10センチのコンクリート壁を壊すほどの力があることが分かった。

 さらに津波が危険な理由は、かなりの速度の流れとなることだ。気象庁によると、水深が浅いほど波の速さは遅くなるが、陸上に押し寄せた時でも時速36キロ程度あり、「オリンピック陸上の短距離選手並み」。津波注意報が発令される基準となる高さ50センチ程度の津波に巻き込まれると、成人男性でも足をすくわれ、転倒することが同研究所の実験で確認されている。

 有川さんは「一度流されてしまうと、引いていく波でさらに押し流される。たかが50センチと安易に判断してはいけない」と話す。【飯田和樹、八田浩輔】

【健康】「パーキンソン病」闘病記をまとめた富田武さん(77)

 ■友を得て病気と仲良く付き合う

 難病「パーキンソン病」を患い、約15年の闘病生活を送る大阪府高槻市の富田武さん(77)が闘病記『絆(きずな) パーキンソン病と仲良くなる法』をまとめた。突然の難病の宣告、仕事をあきらめて闘病生活へ。思うように体が動かず、足がすくみ転倒を繰り返す。不眠にも苦しんだ。支えとなったのは、家族や友人、患者仲間との出会い。闘病記を通じ、同じ病に苦しむ人々に「友を得て病気と仲良く付き合っていこう」とエールを送る。(岸本佳子)

  

病気知らずだったが

 富田さんが異変に気付いたのは15年ほど前。近所の医師が富田さんの妻に「ご主人の歩き方がおかしい」と指摘した。猫背で歩幅が狭く、不自然なスタイル。書類に書きこむ字が小さくなり、自分でも読めないような字になることもあった。不眠や頻尿にも悩み、専門医の診察を受けたところ、「パーキンソン病です」。それまで病気知らずだっただけにショックは大きく、「自分の体が奈落の底に落ちていくような恐怖感」を覚えたという。

 定年を延長して仕事に精力的に取り組んでいたが、引退を決めた。「寂しい気持ちでした」。徐々に足がすくむ症状が強くなり、自宅の階段から転落したり、室内で段差に足を取られて転倒したりすることもしばしば。手術を決意し、無事に成功。足のすくみが治まり、不眠も解消された。しかし、数年後に再発した。

 そんなとき、病と闘う富田さんを支えたのは家族や学生時代の友人、そして同じ病に苦しむ患者たちとの出会いだった。患者と家族でつくる組織「全国パーキンソン病友の会」の大阪府支部に参加。活動を通して、それまで抱いていた不安な気持ちが消えていったという。平成17年には地元、高槻に下部組織として「うの花会」を立ち上げた。
  

発病前より充実

 パーキンソン病の患者は、背中が曲がったり、姿勢が傾いたり、震える、といった身体に表れる症状を気にして、「人に会うことを避け、家に閉じこもりがちになる」という。富田さんは患者会の活動や闘病記を通して、「人は1人では生きていけないものです。引きこもっている人の背中を、後ろからそっと押してあげたい」と願う。

 現在、富田さんは歩行器を利用しているが、基本的に身の回りのことは1人でこなしている。うの花会など患者団体の活動を仲間と続けながら、趣味の読書や音楽を楽しむ毎日。「病気のことはあきらめ、楽しみを追求しています」と富田さん。「発病前よりも発病後のほうが充実している。パーキンソン病は私にとって“財宝”です」

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 闘病記『絆』は、6月に大阪市内で開かれる全国パーキンソン病友の会総会で販売予定。3冊組で、1、2巻各500円、3巻300円。売り上げは「うの花会」などの活動に充てられる。問い合わせは富田さん((電)080・6164・8612)。

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【用語解説】パーキンソン病

 国内では約1千人に1人が発症するといわれている。中脳の黒質の神経細胞が減少し、ドーパミンも減少するため運動障害が引き起こされるが、その仕組みは完全に解明されていない。症状には手が震えたり、筋肉が硬くなり動作がぎこちなくなったり、転びやすくなったりといった運動面のほか、便秘や不眠などもある。