備える:津波対策/2 巨大な水の塊、圧倒的破壊力

北海道奥尻町青苗地区にある奥尻島津波館。93年の北海道南西沖地震による津波で80軒以上の集落が残らず流され、更地となった場所に建つ。館内には、津波に運ばれてきた漁船が陸地に残された写真や、破壊された家の木材が港を埋め尽くす写真などが展示され、年間約2万人の来館者に津波の威力を伝えている。

 こんな威力の津波に巻き込まれたらひとたまりもない。東京大地震研究所の都司嘉宣准教授は「83年の日本海中部地震でも、死者100人の遺体を医師が調べると、内臓破裂や全身の骨を折って亡くなった人がほとんどだった。逃げようとして津波に追いつかれ、地面にたたきつけられたとみられる。津波の怖さはその衝撃の強さだ」と話す。

 津波は風の影響で起こる波と何が違うのか。港湾空港技術研究所(神奈川県横須賀市)の有川太郎・主任研究官は「単純に言えば、津波の方が水の動く量が圧倒的に多い」と説明する。

 有川さんによると、台風による高波の場合、波の山から山までの長さ(波長)は最大でも数百メートルだが、津波は数キロ~10キロと長い。しかも、風による波は海面付近の現象だが、津波は震源地付近の海底地形の変形によって広い範囲の海水全体が短時間に持ち上げられて起きる。津波は巨大な水の塊で、押し寄せた所には長時間力が加わり続けることになる。普通の波と同じ高さでも、力は1000倍、場合によっては1万倍以上になるという。同研究所の実験では、高さ2メートルの津波は、厚さ10センチのコンクリート壁を壊すほどの力があることが分かった。

 さらに津波が危険な理由は、かなりの速度の流れとなることだ。気象庁によると、水深が浅いほど波の速さは遅くなるが、陸上に押し寄せた時でも時速36キロ程度あり、「オリンピック陸上の短距離選手並み」。津波注意報が発令される基準となる高さ50センチ程度の津波に巻き込まれると、成人男性でも足をすくわれ、転倒することが同研究所の実験で確認されている。

 有川さんは「一度流されてしまうと、引いていく波でさらに押し流される。たかが50センチと安易に判断してはいけない」と話す。【飯田和樹、八田浩輔】

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