稲刈りなどの農作業が最盛期だった9月、農家の人がトラクターやコンバインで転倒し、死亡する事故が県内で3件立て続けに発生した。農作業の現場では運動能力や判断力が低下した高齢者が大半で、機械を使った作業の安全をどう守るかが大きな課題となっている。
のどかな田園風景が広がる津市久居明神町で9月11日午後2時すぎ、市道からトラクターが転落し、農家の男性(79)が亡くなる事故があった。
津南署によると、男性はベテランの専業農家。午後1時45分ごろ、トラクターで自宅を出発したが、700メートル離れた田んぼに向かう途中、操縦を誤って市道から60センチ下の田んぼに真っ逆さまに転落した。トラクターは旧式で、運転台を覆う「安全フレーム」がついておらず、男性は機械の重みで押しつぶされた。
翌12日には津市片田長谷場町の男性(79)がトラクターで農道から転落して死亡。20日には伊賀市玉滝の男性(77)が、稲刈り中にコンバインごと田んぼに落ちて亡くなった。犠牲者はいずれも70代後半で、農業の経験が長いという共通点があった。
農林水産省農業生産支援課によると、農作業事故の全国の死者は2007年が397人で、そのうち65歳以上の高齢者が72%を占めている。県内でも毎年5人前後が亡くなっており、やはり大半が高齢者だ。
死亡事故の65%は、トラクターやコンバインなどの機械を使っている時に起きている。あぜ道や道路から転落したり、ぬかるみにはまって操作を誤り、横転したりする事故が目立つという。
同課は「機械自体の安全性は向上しているが、自動車の運転と同じで加齢による身体機能の低下が事故につながっている」と指摘する。昨年度から農機具メーカーに対し、機械を買い替える高齢者に身体機能の低下を自覚してもらうテストの実施を求めている。
しかし、小規模な兼業農家が多い三重県では後継者不足が深刻で、機械を新しくする余裕のある農家は少ない。県農水商工部農業経営室は「農業用の機械は車と違って車検がない。安全性の低い旧型の機械をそのまま使っているケースも多い」と話す。業界団体を通じて農機具の安全な使い方の講習会を行っているが、現場の高齢化の波に対応し切れていないのが実情だ。
(鈴木龍司)