7月30日17時1分配信 毎日新聞
◇障害受け入れる勇気に共感--貞弘治美さん(35)の入選作「解放」に曲を付けた、上田敬二郎さん(46)
◇顔を上げたら 皆が手を差し伸べてくれていた 笑いかけてくれていた
「自分と一緒だ」。最終入選作「解放」に曲を付けた上田敬二郎さん(46)=大阪府豊中市=は、作詩者の貞弘治美さん(35)=山口県周南市=の詩を読んで涙が出たという。貞弘さんは交通事故で「高次脳機能障害」を負い、障害を受け入れるまでの心の葛藤(かっとう)を詩につづった。
高次脳機能障害は、頭部外傷や病気による後遺症で、認知障害や人格変化を起こす。注意力や集中力の著しい低下、新しいことを覚えられない、感情や行動の抑制が効かないなどの症状がある。
上田さんは03年2月、酒に酔って居酒屋で転倒。脳の一部を損傷し、高次脳機能障害と診断された。
事故に遭う前、知的障害を持った人たちが働くうどん店で、障害者に接客や配ぜんを教える仕事をしていた。味付けは上田さんの担当だったが、事故後は味覚がおかしくなり、できなくなった。自分が言ったことを覚えられず、何度も同じことを指示するようになった。仕事は辞めざるを得なかった。貞弘さんはつづる。
きづいたらびょういんだった
なぜ 病いんにいるの?
体 うごかせないの?
ろれつ まわらないの?
「周りに迷惑をかけることや今までできていたことができなくなったのが、つらかった」と上田さんは話す。言ったことを忘れるのが嫌で、人とのコミュニケーションを避けた。妻や子供たちに当たった時期もあった。
今の自分を 見つめて
顔を上げたら
皆が手を 差し伸べてくれていた
笑いかけて くれていた
ありがとう
できないことが増え、自分は変わったと思った。そんな時、小学時代からの友人に会った。「障害を持ったからって、自分が思うほど変わってないよ」と言われ、うれしかった。妻も障害を理解し、子供たちに説明してくれた。その後、味覚障害は治り、記憶障害も徐々に回復。今は宅配業者でトラック運転手をしている。
大学時代、わたぼうし音楽祭で歌うボランティアをしていた上田さん。「解放」は得意のギターでしっとりと歌い上げる曲調にした。「勇気を感じる詩。きっと周りの人に支えられているからこそ、勇気が生まれていると思う」と、笑顔で話した。【石田奈津子】
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◆第34回わたぼうし音楽祭
8月2日(日)、奈良市登大路町の県文化会館国際ホールで開催。午後2時開演、午後5時終演。入場料は前売り一般2000円、高校生以下1000円(当日はいずれも500円増)。問い合わせは奈良たんぽぽの会(0742・43・7055)。