7月28日16時1分配信 毎日新聞
障害のある人がつづった詩をメロディーに乗せて歌う「第34回わたぼうし音楽祭」(奈良たんぽぽの会主催、毎日新聞社、毎日新聞社会事業団など後援)が8月2日、奈良市登大路町の県文化会館で開かれる。出場する人たちはどんな思いを詩に込めたのか、3回にわたって紹介する。(太字部分は詩)。【石田奈津子】
◇ありがとう、あなたに出会えてよかった 母の愛、一人暮らしで実感--「道」で入選、川島寛子さん(56)
「人生で初めてのことで、最初は不安でいっぱいだった」。「道」が最終入選作に選ばれた脳性まひの川島寛子さん(56)=橿原市白橿町6=はこう振り返る。昨年8月、同居する母和子さん(80)が庭で転倒。大腿(だいたい)骨を骨折して3カ月間入院し、突然、一人暮らしが始まった。
最初は戸惑うことばかりだった。日用品や食料品がどの棚にあるのか分からない。朝は、和子さんが出してくれる温かい牛乳を飲むのが日課だった。しかし、手が震え、電子レンジから手元にコップを持って来ることができない。「これからどうしよう」と、途方に暮れた。
ささいなことで悩んでいた私
誰も一人で生きてるんじゃないって
あなたはいつも暖かいまなざしで
包んでくれたね
「母は厳しい面と自由にさせてくれる両面がある」と寛子さんは話す。幼いころ、寛子さんの好き嫌いを直そうと、和子さんは1週間毎日、ニンジン料理をテーブルに並べた。「すり下ろしたり細かく刻んだり、手を替え品を替え出してきた。おかげで食べられるようになった」と笑う。一方、二十数年前、米国の観光ツアーに一人で参加しようとした時は、「自分でやる分にはかまわない」と快く送り出してくれた。
今回の入院で、母の存在の大きさを改めて感じた。同時に、「母が、私を生んでよかったと思える道を全うしたい」という気持ちが強くなった。
「自分なりの工夫をしよう」。友人らに頼んで必要なものは手が届きやすい場所に移した。パソコンでレシピを検索し、1週間分の献立を考えてスーパーへ。一つ一つハードルをクリアすることで、成長できたと思えた。
ありがとう あなたに出会えてよかった
いつかきっと別れの時は来るけれど
あなたのぬくもり抱きしめて生きていく
母への思いを込め、一気に書き上げた。詩を読んで和子さんは「入院中はちゃんとご飯食べているか、本当に心配だった。こちらこそ『ありがとう』です」とはにかんだ。
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◆第34回わたぼうし音楽祭
8月2日(日)、奈良市登大路町の県文化会館国際ホールで開催。午後2時開演、午後5時終演。入場料は前売り一般2000円、高校生以下1000円(当日はいずれも500円増)。問い合わせは奈良たんぽぽの会(0742・43・7055)。