カメラは新たな銃か?

アメリカの少なくとも3つの州で、職務中の警察を撮影する行為が違法になりました。

FacebookやYouTubeに警察が職権乱用してるシーンを投稿する市民が増えて困ってる警察当局には違法化は好評ですけど、これってどうなんでしょうね。自分が事件に巻き込まれて弁護に必要な場合でも、プライバシーも何もない公道で撮影した映像でもダメなんですよ?

「撮影者」逮捕が合法という法的根拠は、既存の通信傍受法と盗聴法、それに公務執行妨害予防法です。

イリノイ州、マサチューセッツ州、メリーランド州を含む12州では、TVの撮影同様、映像に映る全員の同意を得なくてはならないんですが、警察はもちろん同意するわけないので、カメラ構えてると即逮捕されちゃう、というわけですね。

全会一致の州も大体は「プライバシーの問題が予見されない」公の場での撮影は例外と定めています(イリノイは定めていない)。でも、現実には例外は認められてないのが実情。

撮影の罪で逮捕されたサイモン・グリック(Simon Glik)さんの弁護を担当するマサチューセッツのジュン・ジェンセン(June Jensen)弁護士は、「ボストン警察は誤った法解釈をしています。ボストンコモン(中央公園)に行ったら誰でも好きなように写真撮ったり録画できるじゃないですか、ねえ」と話してますよ。

法律が専門のジョナサン・ターレイ(Jonathan Turley)教授も同意見。「警察は、両者合意が原則の監視法をとんでもなく読み違えてますね。私は監視法の本を書いたから言えるのですが、これはまったくのナンセンス」

でも法廷はそうは思ってないようです。
 

クリストファー・ドリュー(Christopher Drew)さんはシカゴ市内で1ドルでアートを露店販売して捕まった際、それを録画した行為が監視法違反に当たるとして起訴されました。

イリノイ州判事は起訴取り下げの申立てを却下。行商免許不所持、行商禁止区域で物を売った軽犯罪の方は不起訴にしたのに、ななななんと不法撮影のオマケの方で求刑懲役4~15年というクラスIの軽罪で起訴したのです。本末転倒じゃないですか?

マイケル・ハイド(Michael Hyde)さんは2001年、州の電子監視法違反(つまり警察との遭遇を撮影した罪)で逮捕されました。マサチューセッツ州最高裁判所は4対2で有罪判決を支持。マーガレット・マーシャル(Margaret Marshall)裁判長は反対意見書でこう述べてます。「問題の公務が警察のものである場合、市民は特に重大な役割を担う。市民が犯罪的報復を恐れなくてはならないとするなら、その役割が果たせないことになる….(←やや意味不明)」(注:一部州では録音だけでも違法となる)

告訴の対象となった「撮影者」。その選び方には、なんとなく報復、威嚇のパターンが読み取れます。

先のグリックさんの場合、「これは過当な実力行使じゃないの?」と自分が思った警察の扱いを記録に残そうと思って携帯で録画したのですが、逮捕されただけでなく、携帯も押収されてしまったんですよ。

先の露店販売のドリューさんは、自分のサイトでこう書いてます。

「シカゴの行商免許法をテストしてやろうじゃないの、ということになって、僕の行動を記録したアーティスト3人と一緒にダウンタウンでアート売って、警察に逮捕してもらおうと2ヶ月粘ってみた。
警察は2ヶ月ずっと逮捕をためらった。逮捕したら連邦裁判所の所轄になるの知ってるからね。 例の軽犯起訴では(物売りの方は告訴を取り下げることで)このテストをなんとか回避し、僕の信用に傷をつけ、生活を経済的に破綻させようとしているのだ」

3人目のハイドさんは自分で撮った録画を証拠にハラスメントの罪で警察を訴えたのですが、その後に刑事起訴されてしまったんですね。

つまり一言でまとめると、警察をヨイショする録画(赤ちゃんにキスする警官、犬を助ける警官など)なら、被写体全員の合意抜きに録画しても、まず起訴はされないわけです。されるのは、警察の顔に泥を塗る人、警察に歯向かう人、法に異議を唱える人だけ、そんな風に見えません? もしそうなら、こうした起訴は警察の批判、あるいは単なる反対意見を牽制する社会的抑圧の一形態、ということになります。

最近メリーランド州で起こった逮捕はまさにその典型で、この問題の根深さを示しています。

3月5日、アンソニー・ジョン・グレイバーIII(Anthony John Graber III)さん(24)はバイク運転中にスピード違反で警察に呼び止められました。現在彼はヘルメットマウントのビデオカメラでその模様を撮影した罪で刑事起訴に直面しています。

この事例の問題点をまとめるとこうです。

1) 逮捕されたのは警察と会った直後でなく、その10日後。YouTubeに動画を一部投稿し、それで州警察官のJ. D. Uhlerさんが慌てた後に逮捕されたんです。動画の中でUhler州警察官は警察の車とわからない普通車からいきなり普段着で飛び降り、拳銃を振り回して叫んでました。警官と名乗ったのは、後になってから。このYouTube動画が警察の目に止まり、グレイバーさんにさっそく令状を取って実家(おそらく彼も親と同居中)を家宅捜索し機材を押収、通信傍受法違反で起訴と相成ったのです。

2) メリーランド州の通信傍受法がこのような使われ方をするなんて聞いたこともないと、マルチモアの刑事弁護人スティーヴン・D.・シルバーマン(Steven D. Silverman)さんは言ってます。つまり今広がりつつある警察の職権濫用を録画する行為を犯罪化する動きに同州も加わったことになります。シルバーマンさん自身は、「これは通信傍受法違反と言うより、”警察の侮辱罪”の領域ですよね」と言ってますよ。

3) 警察広報のグレゴリー・M.・シプレイ(Gregory M. Shipley)さんは、「気まぐれな報復措置」ではないとし、グレイバーさんの交通違反は特にひどいものだったと言って、起訴追求の立場を弁護しています。でも妙なこともあるもので、あの動画が出るまでは、逮捕が要るほどひどい交通違反でもなかったんですよね。

さて以上のケースでは警官はほぼ例外なく、逮捕した警官の断固支持に回っていますよね。 警官といっても、中にはオーバーリアクトする荒っぽい警官もいれば、隠し事のある警官もいるはずなのに。これはそうした発想を固くなに拒否する議論に思えます。要するに「警察を録画する人間は逮捕せよ」というのが正式な方針で、それを裁判所も支持してしまってるんですね。

サイト「Photography Is Not A Crime(写真は犯罪ではない)」のカルロス・ミラー(Carlos Miller)さんは、こう説明しています。

「1ヶ月未満で2度、ビデオテープから出た証拠が決め手となって警官に有罪判決が下りました。最初に有罪となったのはNY市警パトリック・ポーガン(Patrick Pogan)警官。彼は警官に襲いかかった罪で自転車の人を起訴したのですが、実はその前に自分からその人をボコボコに殴っていたことがYouTubeの動画で判明したのです。あの動画が投稿されてなかったら絶対法廷には立ってない人です。2番目の警官はオハイオ州オタワ・ヒルズ警察トーマス・ホワイト(Thomas White)警官。こちらは交通違反で取締りの後、バイク運転者の背中に発砲。撃たれた男性(24)は一生不随の体になってしまいました」

カメラを向けられた警察官が、銃を向けられてるのと同じ感覚を味わうのだとすれば、それは正しい状況認識かもしれません。カメラは今や普通の市民が警察の職権濫用から自分の身を守り、職権濫用を白日の元に晒す最も有効な武器なのです。そして、警察はこれを止めたがっている。

幸い、こうした「撮影者」逮捕の動きが広まる中、これに法的に逆らう動きも見えてきました。少なくともペンシルバニア州の法では、公共の場におけるビデオ撮影の権利を再確認してますよ。スクリングシティとイーストヴィンセントタウンシップの警察が、逮捕された「撮影者」の弁護を担当したACLU弁護士と和解し、その一環として「任務中の警官の録画を許可する方針」を書面で確認、施行したのです。

ラッドレイ・バルコ(Radley Balko)さんはジャーナリストの立場からこう宣言しています。「州議会も、職務中の警官の撮影を合法化する法律を通過させることを、そろそろ本気で考えるべきですね」

[寄稿者プロフィール]
ウェンディー・マケルロイ(Wendy McElroy)さん: アナーキズムとフェミニズムに関する著書数点あり。因習を破るサイト「ifeminists.net」の中の人です。ブログ「wendymcelroy.com」もアクティブに更新中。

Wendy McElroy(satomi)

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