花火大会事故 市民感覚が一石

 兵庫県明石市の花火大会事故で、神戸第2検察審査会は、事故当時の明石署副署長について起訴相当と判断した。この結果、元副署長は強制的に起訴され、法廷で刑事責任の有無が審理されることになる。

 「公益の代表者」とされる検察官は、無罪となった場合に起訴された被告の人権侵害が甚大であることを踏まえ、有罪判決を得られる確証を持ち得ない状況での起訴に慎重になる側面があった。

 しかし、審査会は議決文の冒頭で、検察官の立場に理解を示しながらも、「有罪か無罪か」という従来の見地からではなく「市民感覚の視点から、公開の裁判で事実関係および責任の所在を明らかに」する立場に寄った。刑事事件を審理する法廷のあり方にまでかかわるスタンスの違いともいえる。

 裁判員制度の導入とともに、公判での立証活動は「精密司法」から「核心司法」へと大きな変化を迫られたが、今回の議決は、市民の司法参加が、起訴のありようにも一石を投じた結果といえるだろう。

 審査会は、そうした市民感覚から元副署長の過失の有無を検討。事故当日の対応だけでなく、元副署長も関与した警備計画の策定段階にもさかのぼり、過失があったと結論づけた。

 事故の原因は現場の警備責任者だった当時の明石署地域官らが対応を誤ったことにあったと判断し、副署長の起訴を見送ってきた神戸地検の訴因構成を「理解できない」とまで断じている。

 だが、審査会の判断だけが突出しているわけではない。署幹部の責任については、元地域官らを有罪とした平成19年4月の大阪高裁判決も「その刑事責任が不問に付されているのは正義に反する」と言及。遺族らによる損害賠償請求訴訟の判決でも触れられており、結果的に神戸地検の判断のみが“浮いた”格好だ。

 4度の不起訴を経た今回の議決はもとより、今後も検察審査会、すなわち市民が刑事司法に対して果たす役割はますます大きくなっていくと考えられる。それだけに、審査会にもより慎重な審査が求められることになる。(神戸総局 塩塚夢)

今後の流れ「検察官役」に弁護士 起訴へ

 検察審査会(検審)は、議決書を地裁に送付し、裁判所が「検察官役」になる弁護士を選任、この弁護士が起訴する。今回のケースでは、神戸地裁が兵庫県弁護士会に推薦を依頼することになり、弁護士会は「少なくとも3人が指定され、補充捜査の権限が十分行使できる態勢が必要」としている。

 指定弁護士は、検審や地検の記録を引き継ぐとともに、必要とあれば被疑者の事情聴取なども行えるが、任意捜査が原則で、「速やかに」公訴を提起(起訴)し、検察官の役割を行う。

 指定弁護士の任期は判決が確定するまでとなる。

 これまで起訴独占主義を貫いてきた検察官に代わって指定弁護士が公判に立つが、個別事件としてみた場合、有罪の立証が簡単ではない業務上過失致死傷罪をめぐる事件であることや、公訴時効の問題も含め、識者からは「難しい公判になるのでは」との声があがる。

 過失論に詳しい松宮孝明・立命館大法科大学院教授(刑法)は「検察官が起訴しなかった事例で、指定弁護士が新しい証拠をどう収集していくのかが注目される。検察や警察もどこまで協力するかわからず、苦労する部分が多いのでは」と話す。

 また業務上過失致死傷罪の公訴時効(5年)を過ぎており、検審は「(有罪とされ公判中の)元地域官の共犯と評価でき、公訴時効停止の要件を満たす」と判断したが、「過失犯の『共同正犯』を認めたケースはあるものの、こちらも難しい判断になる」とみている。

 明石市の花火大会事故 平成13年7月21日夜、兵庫県明石市主催の花火大会で、会場と最寄り駅を結ぶ歩道橋上に見物客が殺到し、転倒した11人が死亡し、247人が重軽傷を負った。県警は業務上過失致死傷容疑で県警、市、警備会社の計12人を書類送検。神戸地検は明石署の元地域官ら5人を起訴し、市元幹部ら3人は有罪が確定した。元地域官ら2人は上告中。元署長(19年に死去)と元副署長は不起訴になったが、遺族が検察審査会に3度申し立て、審査会は元副署長について3度起訴相当と議決。地検はいずれも不起訴にした。

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