先人に学ぶ 田舎の底力

君津市市宿で13日、地域と市外の老若男女が集って、餅つきを楽しみ、食べ、踊り、語った。交わりと工夫の中に地域の活力を育む「芽」が潜んでいることを示す集いになった。

 同地区は県立中央博物館の房総の山のフィールドミュージアムで、「おばあちゃんの畑」プロジェクトに取り組んでいる。稲作にあまり適していない丘陵地で、知恵と工夫をこらして収量を増やそうとしてきた先人たちに学ぼうという活動だ。

 市宿自治会とおばあちゃんたち、地域活性化を目指す「宿場の風の会」が「集落に餅つきの音が響いた昔を思い出し、年末のひとときを楽しもう」と企画した。

 約100人が参加し、30キロ分の蒸し上げたもち米を、8回に分けてついた。就学前の子どももきねを持った。もち米の品種は「マンゲツモチ」。地区の住民が総出で作った。

 ついた餅は大根おろし、ゴマ、「えーなり(やえなり)」と呼ばれる緑豆のあんをまぶして食べた。どれも市宿の田畑で育てられた。滋味が深い。野菜たっぷり、みそで味付けした、肉以外は地元産の「宿場鍋」の雑煮は、餅のきめが細かくつるっとのどを滑る。

 スーパーで求める大量、単一生産された味とは微妙に違う、昔ながらの品種と栽培による深い味わい。そんな感想が聞かれた。

 今は作る人もいない稲の品種「愛国」「関取」「千葉旭」「上総こぼれ」「神力」と、うまさで人気の「コシヒカリ」の食べ比べもあった。意外だったのはコシヒカリで、なぜか人気投票では5位だった。

 多くは味や量、栽培技術、収穫の面倒さなどを理由に消えていった品種だが、生育期をずらした稲作で、天候不順などへの「保険」にしていたことや、集中する農作業を分散させていたことも分かる。

 「市宿は宝物がいっぱい」。こんなトークショーもあった。中央博物館上席研究員の島立理子さんの司会で、友人の元電通CMプランナーの中園順子さんが、参加者と掛け合う形で進んだ。

 「集団就職時代とは逆の田舎を目指す流れが出ている。田舎には底力がある。おばあちゃんは救世主です」と中園さん。受ける形で鴨川市に移住した若者が「助け合って生きている」と実体験を語った。

 地元からは「田舎には職場がない。暮らせないから都会に出る」との悩みが出た。

 世間で吹き始めている風の動きと地元の現実。結論は出なかったが、世話役の市教育委員の木曽野正勝さんは「地域を元気にするヒントと方向性を含んでいる内容で、いい刺激になった」と語る。

 市宿に潜む活力をよみがえらせようと取り組んでいるのが「畑」プロジェクトだ。

 肥料は乏しく農薬もない時代に、時期と場所をずらして栽培することで食べ物を確保した先人の工夫を学ぶ。味はいいのに作られなくなった作物に挑むことで、地域が秘めている力を探す。

 プロジェクトはそんな工夫を重ねる。島立さんは「今後はワラの扱いや、年中食べられるよう工夫したお茶請けなどの加工を教えてもらって継承し、記録したい」と話している。
(高山修一)

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