告げられた余命を越え、難病と闘う染織工芸作家の男性の作品展が2日から、京都市上京区出水通堀川西入ルの「ギャラリーかもがわ」で始まった。個展は、男性の最後の夢。家族は「本人の生涯を通じた仕事を見てもらい、重い病気に苦しむ人にも希望を与えたい」と話している。
男性は、山科区小野御所ノ内町の田口尚八さん(72)。久美浜町(現京丹後市)に生まれ、約半世紀にわたってろうけつ染めの作家として活躍してきた。
体に変調をきたしたのは2005年ごろ。前のめりで転倒するようになった。転んで背骨と腰骨を折った06年、厚労省の特定疾患「脊髄(せきずい)小脳変性症」と診断され、「余命2年」と宣告を受けた。
その後、病状は進行。運動機能が衰え、昨年までは絵筆を手にし色紙に描いていたが、それもできなくなった。
「最後にもう一度だけ個展を開きたい」。田口さんの言葉に、妻の洋子さん(69)らが「ろうけつ染め一筋のキャリアの集大成に」と昨年から準備を進めてきた。病院に作品の写真や図録を持ち込み、田口さんと出品作を選んだ。
会場には、北山杉の山並みや醍醐の桜を染めた着物や屏風など約30点が並ぶ。この日は、もう会話もできなくなった田口さんが訪れ、大勢の人たちが個展開催を祝った。洋子さんは「命あるうちに個展を、という本人の希望がかなった。少しでも多くの人に元気を与えたい」と話していた。
個展は14日まで(正午~午後7時)。火曜休み。同ギャラリーTEL075(432)3558。