「潔は戻ってこない」

16人の死者を出した大阪市の個室ビデオ店放火事件で2日、言い渡された死刑判決。犠牲になった元プロゴルファー坂本潔さん(当時53歳)の父・正一さん(80)と妻の信子さん(75)は、美馬市の自宅で、傍聴していた潔さんの弟からの電話で判決を知った。「これでようやく墓前に報告できる。でも、死刑判決が出たからといって潔は戻ってこない。死刑は当然と思っていたけど、最後まで否認していたので事件の全容が明らかにならず残念だった」と、無念さをにじませた。

 事件後、自宅の階段で転倒し、寝たきりになった正一さんは、今ではトイレにも四つんばいでしか行けず、信子さんが付きそう。2人で毎日、仏前の潔さんの遺影に語りかけてきた。

 生前、潔さんは正一さんに「将来は一緒に暮らそう」と言っていた。「家族のきずなを断ち切った被告は絶対に許せない」と改めて怒りがこみ上げる。公判で怒りや悲しみの気持ちを手紙に書いて送ったが、「書いても書いても気持ちは晴れなかった。少しでも思いが届いて、被告に反省してほしい」と願う。

 そんな中でも明るいニュースもあった。先月、大阪に住む高校3年の潔さんの娘が、大学に合格。一報は本人からの電話だった。事件後、元気をなくしていた孫娘を気にかけていた正一さんは、「電話からでも笑顔で話しているのが見えてきた。勉強できるような状態でなかったのに、ほんまよう頑張った」と胸をなでおろした。

 潔さんが「娘は勉強が好きだから、大学に行かせてやりたい」と言っていたのを思い出す。正一さんは墓前で潔さんに孫娘をしっかり育てると約束したといい、「これまではつらいことばっかりだったけど、ようやくのうれしいニュース。潔も天国で喜んでいるやろう」と遺影にほほ笑みかけた。

(2009年12月3日 読売新聞)

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