安心・安全ナビ:相次ぐハンドル形電動車椅子の転落、転倒事故。防止策は。

◆相次ぐハンドル形電動車椅子の転落、転倒事故。防止策は。

 ◇JISに新品質規定 車体の安定性や暴走防止機能
 ◇利用者向けに安全講習や啓発活動も
 昨年9月、福井県鯖江市の農道脇の側溝(深さ約50センチ)で、うつぶせに倒れている男性(92)が発見された。男性は頭などを強く打っており、間もなく死亡。男性に覆いかぶさるようにハンドル形電動車椅子が転落していた。経済産業省などが事故原因を調査した結果、車椅子に異常はなく、男性が車椅子で走行中に誤って路肩に入り、側溝に転落したと結論付けた。

 経産省によると、07年5月に消費生活用製品安全法に基づく製品事故報告制度が始まってから先月までの間に、ハンドル形電動車椅子の重大事故は30件発生。うち12件が側溝などへの転落や転倒による死亡事故だった。

 こうした事態を受け経産省は昨年6月、同法の「特定製品」に指定する方針を固めた。特定製品にはこれまでに▽家庭用圧力鍋▽乗車用ヘルメット▽乳幼児用ベッド▽登山用ロープ▽携帯用レーザー装置▽浴槽用温水循環器--など9品目が指定されている。これらにハンドル形電動車椅子を追加し、技術基準を満たさないと販売できないよう規制をかけようとした。

 しかし、この方針に障害者団体などが反発。NPO法人「DPI日本会議」の今西正義さん(60)は「操作ミスが原因とみられる事故が目立つ中、技術基準を厳しくするだけで事故が減るかは疑問だった」と指摘する。「規制のために操作しづらくなって事故が起きたり、値段が割高になる恐れもあった。利用者に対し危険性を実感できる講習会を実施することや、道路の整備も重要だ」と話す。

 こうした意見を受け、経産省は方針を転換。先月、安全性や品質維持の基準となる日本工業規格(JIS)に、ハンドル形電動車椅子に関する新たな規定を設けることを決めた。

 新規定では、斜面や段差で停止や急発進をしても転倒しないよう車体の安定性の基準や、誤ってアクセルレバーに触れて暴走しないような設計などが盛り込まれた。また、購入時に製品ごとの特徴を分かりやすくするため、▽斜面を旋回する際の安定性▽段差を乗り越える際の安定性▽回転性能--の3項目について、最大三つの星で表示することも求められる。

 一方、操作ミスによる事故を防ぐため、経産、厚生労働、国土交通の3省と警察庁は対策会議を開催。関係団体の協力を得ながら、(1)事故原因の分析(2)初心者などを対象にした講習会の実施(3)販売店による安全指導やレンタル業者による適合性チェックの実施(4)百貨店を通じた啓発活動--を目指すことで一致した。

 電動車椅子メーカーで組織する電動車いす安全普及協会は「事故を防ぐため、まず外出前に点検をしてほしい。また、急な傾斜地や大きな段差などでの走行は避けてほしい」と注意を呼びかけている。【奥山智己】

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 ◆最近起きた主な電動車椅子の事故◆

発生日   場所  内容

5月18日 宮城県 下り坂を走行中に転倒し死亡。急ハンドルを切ったとみられる

7月 9日 福島県 上り坂を走行中、警告音が鳴り後退し土手から転落。重傷を負った

7月24日 長崎県 農道から転落し死亡

8月 9日 熊本県 踏切内で停止し、電車と接触。重傷を負った

同     同   舗装されていないあぜ道から転落し死亡

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