ゲレンデに潜む危険…シーズン直前、転ばぬ先の知恵

まもなくスノースポーツのシーズンがやって来る。そのゲレンデでは毎年多くの人が負傷、死に至る悲惨な事故も起きている。スキーでは中高年スキーヤーの事故の割合が増加。スノーボードでは低年齢化が進み、10歳未満の子どものけがが増えている。スノーボーダーはスキーヤーより受傷率(けがをする割合)が約2倍も高いという調査結果もある。琵琶湖大橋病院スポーツ整形外科部長の後藤匡志先生は「ゲレンデには危険がいっぱい。自分の力量を過信すると落とし穴がある」と注意を喚起する。(構成・高堀賢二郎)

 「スキーでは中高年スキーヤーの増加に伴い、50歳以上の負傷者の割合が高まっている。スノーボードでは10歳未満の子どものけがが増えてきた」。滋賀県スキー連盟の調査結果を基に後藤先生はこう指摘する。

 その調査によると、スキーでは1996年から3年間(いずれも2月の1か月分)の50歳以上の負傷者の割合は6・2%だったが、2006年から3年間では15・6%と3倍近くになった。一方、スノーボードは20歳代の負傷者が70・3%から42・8%に減る半面、各年代に拡散し、特に10歳未満は1・0%から8・2%に急増している。

 こうした傾向は全国スキー安全対策協議会の調査ともほぼ符合する。08/09シーズンの全国の主要44スキー場での受傷者はスキー1402人、スノーボード2339人。それぞれ7人、3人の死亡事故があった。受傷率(グラフ参照)はスキー0・0077%に対しスノーボードは1・9倍の0・0149%。スノーボードでは10万人当たり約15人がけがを負った計算になる。

 「スノーボードはバランスのスポーツ。バランスを取りにくいため転倒する事故が目立つ。小さなこぶでも着地に失敗し骨折する人が多い。ジャンプの怖さを知らない人が多すぎる」。滋賀県内では、事故が多いためジャンプ用のこぶを撤去したスキー場もあるという。滋賀県スキー連盟の06~08年調査では負傷したスノーボーダーのうち自分で転倒した人が全体の約7割を占めた。残りがスノーボーダーやスキーヤー、立ち木など障害物との衝突だ。

 スノーボードでの傷害の部位は多い順に手首、肩、頭、腰、ひじ、ひざ。上半身、中でも手首の骨折や肩の脱臼が多い。倒れるとき手首だけで受け止めず、柔道の受け身のように衝撃を広く吸収することが大切という。一方、スキーではひざのけがが最も多く、次いで肩、脚、顔、足首などで下半身のけがが多い。

 負傷したときは「RICE」が原則。レスト(安静)、アイス(冷却)、コンプレッション(圧迫)、エレベーション(負傷個所を心臓より高く)の頭文字だ。内出血を抑え、腫れを防ぐためにも必要という。

 「ゲレンデにはさまざまなレベルの人がおり、決して安全ではない」。後藤先生は滑る前、必ず暴走者がいないか確認するそうだ。「スノーボーダーは背中側が死角になり、突然切り返すことがあるので近寄らないこと。子どもが追突されるケースも増えている。親がしっかりと安全を確認してほしい。最近はファッション的なヘルメットや防具も販売されており、特に子どもにはヘルメットの装着を推奨したい」

 万一に備え保険への加入も大切。自損の傷害保険への加入者は増えてきたが、賠償保険への加入者の割合はまだ低い。「スキー場で他人と衝突し重傷を負っても、加害者が治療費を払い生活を保障してくれるという可能性はほとんどない。それが現実だ」

 楽しいはずのスノースポーツが悲惨な結末にならないよう、今から後藤先生の忠告を肝に銘じておきたいものだ。

 ◆症例

 ▼〈2〉16歳女性 アルペンスキー競技の強化選手で事故は練習開始直後に起きた。滑り始めてまもなく転倒、スキー板を付けたまま左足を強打した。診断は脛骨(けいこつ)骨折。すねの内側の骨が斜めに真っ二つに折れていた。長さ約30センチの金属で固定、2週間後から歩行などのリハビリを始めたが、金属を抜くまでに約1年を要した。事故の原因は雪面がアイスバーン状態でスキー板のエッジが雪面に掛かりにくかったことと、競技者ゆえにビンディングの開放値を高く設定していたこと。その結果、強い衝撃やひねりの力を受けても板が外れず、ブーツの上の部分で骨折を招いた。「一般スキーヤーにとってもビンディングの正しい調整が大切」と後藤先生。

 ▼〈1〉32歳男性 スノーボードで滑り始めた直後、背後から若いスノーボーダーが猛スピードで突っ込んできた。男性は前方に跳ね飛ばされて転倒、ひざを雪面に激しく打ち付け、ひねった。加害者は軽傷で済んだが、この男性はひざの骨折と前十字靱帯(じんたい)断裂という大けが。まずネジで骨折部を固定。骨折治療後に切れた靱帯をつなぐ再建術を行った。男性はスノースポーツだけでなく、ハーフマラソンなどにも挑戦するスポーツマンだったが、この事故のためスポーツ活動を完全に再開するまでに1年半ほどを要した。

 ◆後藤匡志(ごとう・ただし)37歳。1997年、滋賀医科大卒、京都大整形外科入局。2008年4月、琵琶湖大橋病院のスポーツ整形外科部長に就任。日本体育協会公認スポーツドクター、滋賀県スキー連盟・全日本スキー連盟公認ドクターとして活躍。バスケットbjリーグ所属の「滋賀レイクスターズ」、ラグビートップリーグ「ホンダヒート」、バレーボールVリーグ女子「東レアローズ」のチームドクターも務める。「ホームゲームに帯同するのでスキーなどを楽しむ時間がなくて。健康法は筋トレかな」

 ◆琵琶湖大橋病院 1989年に琵琶湖大橋の西側に開院。24科、199床を持つ湖西地域の中核病院。2003年の新館増築と本館改修を機に、循環器、糖尿病、人工透析などの各センターを開設。専門外来にスポーツ整形や乳腺外来がある。介護老人保健施設「BOHケア・サービスセンター」を併設、老人医療にも力を注いでいる。大津市真野5の1の29、TEL077・573・4321。

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