緑内障や糖尿病網膜症などで視覚障害がある人は約164万人で、社会的な損失を金額に換算すると年間8兆円を超えるとの試算を日本眼科医会 (東京)がまとめた。初の分析で「健康障害が社会に与える影響を考える基礎になれば」としている。
こうした試算の実績があるメルボルン大(オーストラリア)と共同で実施。米国の基準を採用し、良い方の目を矯正した場合の視力が0・5未満を視覚障害とし、さらに0・1以下の「失明」と、それより上の「低視力」とに分けた。
その上で、市町村レベルのさまざまな眼疾患の疫学研究、国勢調査、人口予測など16の調査結果を用いて分析。2007年時点で低視力は約144万9千人、失明は約18万8千人、計約163万7千人が視覚障害と推定した。全人口中の有病率は約1・3%。
原因は緑内障(24%)が最多で、糖尿病網膜症(21%)、病的な近視(12%)、加齢黄斑変性(11%)、白内障(7%)の順。同医会は「米国やオランダ、オーストラリアなど先進諸国の結果と比べても、有病率は同程度か低いぐらいで、実態と懸け離れてはいない」とする。
社会的損失は計約8兆7800億円に上るとの結果が出た。内訳を見ると、診療費や薬剤の医療費、介護保険料などが、厚生労働省などのデータから約1兆3400億円。家族がケアや通院の付き添いなどに時間をとられ、働きにくくなることや、視覚障害者は離職する人が多く雇用率も3割程度低下するとの研究報告があることから、約1兆5800億円の損失が出ると推定した。
生活の質の低下にも着目。視覚障害になると生活が不便になるほか、転倒の確率が最大約2倍、股関節骨折が最大約8倍、うつ状態になる確率や死亡リスクが高まるとの報告もあることなどから、世界保健機関(WHO)や世界銀行が研究で用いたことのある指標も使うなどして、これにかかわるコストを約5兆8600億円と計算した。
視覚障害者は、60歳以上が全体の72%を占め、高齢化で30年には約200万人に達すると予測されることから、損失は約11兆円に膨らむ。ただ、予防や早期診断に対する国民の意識が向上し、積極的な治療が進むなどして約140万人にとどまれば、約6兆円に減るという。