高層階に住んでいるのにエレベーターが動かなかったら――。大阪市が全国に先駆けてマンションの「防災力認定制度」を始めた。飲料水などの「備蓄倉庫」を高層階に置くなどといった基準を設けて、クリアした物件に認定プレートを出す仕組み。大阪市内で売り出された20階(高さ約60メートル)以上の高層マンションはすでに計98棟にのぼるとされるが、災害対策が大きな課題になっている。
見上げると、青空に刺さるようにまっすぐ壁面が伸びてゆく。高さ約209メートル、地上54階建ての大阪市中央区の超高層マンション。市内中心部で今春完成したばかりの「高さ日本一」という物件だ。
不動産経済研究所(東京)によると、こうした20階以上のマンションは大阪市内で98棟販売され、04~08年だけで45棟。今年もこれまで5棟が売り出された。「都市部の利便性の良さ、眺望の良さが人気」(マンション開発業者)といい、今後、さらに新規の販売計画があるという。
続々と増える超高層の物件だが、課題は防災面。停電や故障でエレベーターが止まると住人が中に閉じ込められる危険がある。また、地上との行き来が困難になれば高層階は食料、飲料水、トイレなどの確保が重要だ。
マンション開発業者の間では、自主的に飲料水をつくる「造水機」や簡易トイレなどを1階に設置する動きがある。しかし、ある担当者は「水や食料があっても、徒歩で10階以上運ぶのは大変。高層階の住人に向けた対応策はこれからの課題」と認める。
市が8月から始めた「防災力強化マンション認定制度」では、建物の耐震や耐火性の評価に加え、家具転倒の防止策を講じたり、11階以上では10階おきに防災倉庫を設置したりするなどの様々な基準を設けた。すでに数社から申請の問い合わせがあり、制度普及の「出足は上々」(担当者)という。ただ、業者に対する強制力はないため、認定証発行の目標数は年間5件程度と控えめだ。
マンション住まいの世帯が8割以上という東京都中央区では07年7月、開発業者に対する指導要綱に「防災対策への配慮」という項目を新設。地上10階以上であれば、備蓄倉庫を一定階ごとに設置するように一律に指導を始めた。担当者は「新たに計画された40物件が倉庫設置に応じてくれている」と話す。
東京都港区でも同様の規制を検討中で、都市部の自治体でマンション防災への取り組みは広がり始めている。
防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さんは「開発業者はコストのかかる防災設備には消極的。だが、地震などではエレベーターが止まり、高層階の住人が下界から孤立してしまう可能性が高い。行政側は危機感を持って、備蓄倉庫などを当初から装備するように開発業者を規制、誘導すべきだ」と話している。