「お父さんの会社、コンプライアンスは大丈夫?」「え?ああ、ちゃんと付いてるよ」
娘の唐突な質問に「知らぬ」とも言えず、うろたえながら場当たりに答える父親。テレビCMの一場面だ。「コンプライアンスへの対応が企業の将来を左右する」。CMではそう訴えていた。
その「法令順守」に関連して、消費者にとってまさに企業の無知では済まされない問題が、身近な「住」の中で数多く起きている。民間賃貸住宅の敷金をめぐる争いだ。
ある友人が先月、民間の賃貸マンションを退去した際、管理会社から敷金を「原状回復の修繕費として清算する」と通知されたという。彼は「納得がいかない。法的手段も辞さない」と怒りが収まらない様子だった。
国民生活センターによると、2007年度に同センターと地方消費生活センターに寄せられた敷金のトラブルの相談件数は1万3779件。近年、年間1万3000~1万5000件の間で推移している。食品メーカーなどの不祥事で信頼が揺らいでいる「食品の表示・広告」に関する相談件数は6015件。単純に「食」の2倍以上だ。
先の友人の賃貸契約書には特約があり、敷金の「使い道」として①賃料の未払い②畳、ふすま、障子の張り替えを含む総合クリーニング③原状回復費用―の3項目が記載されていた。
1998年3月に国土交通省などがまとめた賃貸住宅の「原状回復とトラブルをめぐるガイドライン」によると、借り主側に経年劣化や通常損耗に対する修繕義務はなく、故意による破損を除いて、敷金は全額返還すべきだとしている。特に、畳・ふすまの張り替えやハウスクリーニングは貸主の100%負担が妥当と明記。それをあえて特約に入れる行為はフェアではない。
日本司法支援センター「法テラス」にも照会したところ、「仮に特約を設けて借り主に原状回復義務の負担を課したとしても、消費者契約法により、その条項が無効となる事案が多い」という。
2006年6月、「国民の住生活の安定確保と向上」を目指した住生活基本法が施行。「住宅の取引の適正化」「流通円滑化のための住宅市場の環境整備」という政策目標は、何も新築・中古住宅に限ったものではない。
こうしたトラブルを防止し、国民の財産を守るためにも、行政にはガイドラインに基づいた賃貸借契約が結ばれるよう、実効性のある対策を打ち出してもらいたい。実際、東京都のように「賃貸住宅紛争防止条例」を制定している自治体もある。
管理会社側も消費者を甘く見てはいけない。契約上のトラブルが多発すれば、オーナーを含めエンドユーザーは離れていく。企業の法令順守に対する姿勢に厳しい目が向けられていることをしっかりと自覚すべきだ。
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