建滴 「同じ轍は二度と踏めない―迫る改正建築士法改正」

姉歯秀次元一級建築士によるマンションなどの耐震強度偽装が発覚してから2年半が経過したが、事件の影響はいまだに広く深く残っている。その一つが2007年後半に顕著となった、改正建築基準法による建築着工の停滞だ。着工件数は現在回復してきているものの、依然としてマイナス基調が続いている。
 耐震偽装の問題に対応するため07年6月に施行した同法では、構造計算適合性判定制度を新設するなど、建築確認・検査制度を厳格化した。しかし、大臣認定構造計算プログラムの開発が遅れるなど準備不足のままのスタートだった。その結果、手続きが混乱し、建築着工が停滞、経済に深刻な影響を及ぼす結果を招いてしまった。問題解決を急ぐあまり、現場の実態を軽視したとみられても仕方がない。
 08年度は、改正建築基準法とともに耐震偽装対策のために改正した建築士法が11月28日に施行する予定だ。
 改正建築士法では、建築士の定期講習受講を義務付け、実務経験要件や学歴要件など建築士試験の在り方も見直す。さらに構造設計一級建築士、設備設計一級建築士の各制度を創設し、大規模な建築物への関与を義務付ける。ほかにも、管理建築士の要件強化や重要事項説明の義務付け、一定規模以上の共同住宅の設計・工事監理の丸投げ禁止といった多くの制度改正がスタートする。新制度と言っても過言ではない大改正だ。改正建築基準法施行時と同じ轍(てつ)を踏むことは許されない。
 改正法の円滑な施行に向け関係団体も動き始めた。建築設計分野の9団体が5月12日、「新・建築士制度普及協議会」を設立した。会長に就任した藤本昌也日本建築士会連合会副会長は初会合で、情報共有と国民への周知に関係団体が一丸となって取り組む決意を示した。オブザーバーとして参加した平井たくや国土交通副大臣も、「(改正建築基準法施行時のように)マイナスの作用を働かすことだけは絶対に避けなければならない」と協議会活動に期待を寄せた。
 設計界と行政が連携・協調した今回の対応策を大いに評価したい。しかし、初会合では各団体がそれぞれの取り組みを簡単に説明しただけで、その後の意見交換では発言がほとんど無かったのが気になる。さらに次回会合は改正建築士法が施行する直前の11月下旬だという。
 改正法の円滑な運用には建築業界だけでなく、建物の発注者となる国民や産業界の理解が不可欠だ。しかし、初会合で藤本会長が「仲間内でも意外に知らない」と思わず漏らしたように、新制度の十分な周知にはまだ不安がある。協議会にはもっと積極的な姿勢を見せてほしかった。
 幸い協議会の会則では分科会を設置できることになっている。分科会の場で、どのような活動を具体化するのか注目していきたい。
 改正建築基準法に伴う混乱では行政を批判する側だった設計界が、この協議会の取り組み次第では批判される側になりかねないことを肝に銘じて取り組んでほしい。

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