お供え酒探し墓地歩く人も…依存症体験語る会、20年

酒で失った家族とのきずなを取り戻したい――。そんなせっぱつまった願いから、名古屋市緑区に名古屋緑断酒新生会ができて20年がたった。アルコール依存症だった会員らは、月10回の例会で自らの失敗をさらけ出し、断酒を誓い続ける。地道な営みが、家族からの信頼を再びつなぎつつある。

 「借金して飲み続け、家にサラ金の取り立ては来るし、電気は止められた。娘に『早く精神科病院に入って』となじられた」「妻に別居を持ちかけられ、『いっそ離婚の方が、給料全部を飲めるからいい』と返してしまい、完全に家族の信頼を失った」……。

 8月31日夜、名古屋市緑区の緑生涯学習センター。車座になった元患者と家族計13人が、次々と体験談を語る。飲んだ帰りに転倒して頭の骨が折れ生死の間をさまよった人や、金がないため夜中に墓地を徘徊(はいかい)して「お供え」の酒を探した会員もいた。

 名古屋緑断酒新生会は1990年3月、名古屋市で五つ目の断酒会として、初代会長の杉村太一さん(69)=緑区作の山町=が立ち上げた。杉村さんは40代でアルコール依存症になり、入院歴もある。退院後、各地の断酒会を回るうちに仲間ができ、自宅にほぼ毎晩、集まって断酒を誓うようになった。

 現在の例会は、公民館や会員宅など場所を変えながら、2、3日おきに開く。夜、寂しくなって酒に心が向かうのを避けるため、毎回午後7時から。最後は全員で「家族はもとより迷惑をかけた人たちに償いをします」など6項目の「断酒の誓い」を唱え、手を取り合い断酒宣言する。

 杉村さんは、例会に20年間通い続けている。依存症の時は、子どもの貯金で飲むなどして妻(66)と離婚寸前だったが「再び酒に手を出さず、家族と一緒にいられるのは断酒会のおかげ」。妻も都合がつけば、例会に参加する。

 現会長は4代目の行田(ぎょうだ)博史さん(59)=緑区鳴海町。44歳の時、飲んでけんかし、気づくと血まみれで路上に倒れていた。妻から別れ話を持ち出されて断酒を決意。緑区をはじめ県内の断酒会に年間280日、出席し続けた。「失敗体験は何度話しても謙虚になれる。例会出席を習慣にすることが大切」と話す。

 緑断酒新生会に参加したことがある元患者や家族は100人余。立ち直ったり、自前で断酒会を続けたりしている元会員もいるが、再び酒に手を出して体を壊したり、自殺へと向かうケースも後を絶たないという。現在の会員は十数人だ。

 自らも依存症の経験がある県断酒連合会元事務局長の長谷川弘さん(74)=犬山市東古券=は、緑断酒新生会について「新入会員を快く迎え、例会を新鮮な気持ちで続けている。全国の断酒会と連携し研修を毎年開いているのも、長続きの理由」と話す。

 来年2月に結成20年式典を開く予定。問い合わせは杉村さん(090・3302・5975)へ。(本井宏人)

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 アルコール依存症 自分で飲酒管理できなくなり、飲んではいけない時や場所でも飲んで問題を起こす病気。厚生労働省研究班の推定では、予備軍を含め全国で約440万人いる。手足の震えや幻視などの身体的症状、現実から逃避し忠告を聞かない精神的症状、社会や家族から孤立する社会的症状が現れる。完全には治癒できず、再び酒を口にすると元に戻ってしまうため再発防止策は断酒しかない。

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