もうすぐ70の大台に乗る主婦。夫の転勤に従い、知らない土地で子を育てました。10年前、夫の故郷に移り住みましたが周りは全部知らない人。地域に受け入れてもらおうと頑張ってきました。ただ夫は寝たきりになって入退院を繰り返し、私は趣味も全部やめました。最近、自分の終(つい)の棲(す)み処(か)はここでいいのだろうか、と思い始めています。
元日に雪かきをしてあおむけに転びました。けがはしませんでしたが、思うように体が動かないことを思い知りました。この先、車に乗れなくなったら買い物はどうするか。死んでも誰も気づいてくれないのでは。暗いことばかり考えます。
子どもたちは都会に住んでいます。知らないこの土地に転居して来ることはないでしょう。独りになったら、この土地をすべて売り、自分の実家があった西の地に小さな家を建てて移ろうか。残り少ない人生にそんなことをしたら無駄だろうか。夫が思いを込めて建てたこの家を人の手に渡すのも惜しい。あれこれ考えて揺れ動いています。(京都・K子)
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老いは、突然、きます。あなたの場合、雪かきでの転倒ですね。人それぞれに、いろいろな形で老いを知らされます。
思ってもみなかったことなので、誰もがショックを受け、あれこれ先ゆきの心配をいたします。どのように生きてゆくか。どういう形で生きたら、ベストだろうか。
残念ながら、これには適切な助言はありません。
あなただけの問題です。あなたが自分で道を決め、歩いていかねばなりません。正しい方向もないかわり、間違った過ごしかたもない。自分で決断するのですから、誰の責任でもない。他人の指図を受けて動くことではないのです。
あなたには子どもさんたちがいますし、一度、家族会議を開いて、真剣に語りあってはいかがですか?
あなたが招集することで、子どもさんがたも、事の重大さを知るでしょう。でないと、若者たちはいつまでたっても、他人事にしか考えませんよ。恥ずかしがらずに老いを訴えることが大事です。
(出久根 達郎・作家)
(2010年1月29日 読売新聞)