語学の壁 現場手探り

Eye on Sunday】

介護・看護職目指す外国人受け入れ1年

受験対策 尽きぬ不安

 経済連携協定(EPA)に基づいて来日したインドネシア人の介護福祉士、看護師候補者の第1陣が、魚津市の施設と病院で働き始めて、約1年がたつ。富山の生活にだいぶ慣れたが、国家試験を目指すには語学の壁はなお高い。受け入れ側は、資格取得後の雇用を期待しつつ、国から受験指導を丸投げされて困惑。ともに暗中模索が続いている。(中林加南子)

 介護福祉士の資格を目指すプジ・アリャントさん(27)とレスタリ・ラハユさん(25)は昨年1月、日本語の研修を終えたあと、特別養護老人ホーム「新川ヴィーラ」に来た。看護師を目指すイノト・ワルウさん(29)は魚津病院を運営する法人と雇用契約を結び、同2月から病院で働いている。

 施設は受け入れた理由を、「国内の(ケア従事者の)人材不足で外国人の力が必要になる将来のため、今のうちから準備する必要がある」と説明する。

 1年がたち3人は、利用者や職員との会話は問題なくこなせるようになり、部屋の担当なども任されるようになった。新川ヴィーラで働くレスタリさんは、「来たときはたくさん困りました。今は仕事も慣れました。利用者さんに『タリさん頼むちゃ』と言われると、うれしい」と、はにかんだ。

◇週2日の勉強会

 「予防」「よぼう」、「転倒予防」「てんとうよぼう」、「予防接種」「よぼうせっしゅ」――。講師の熊西美絵さんの後に続けて、現場で使う言葉を読み上げる。

 毎週火、金曜の夜の2時間は、全員集まって勉強会を開いている。

 第2陣で来日し、今月から魚津病院で働き始めたアルフィン・エラサハさん(27)は「たくさん言葉がある。とても難しいです」。

 先輩3人も、漢字の読みや文章を書くのは苦戦している。引き継ぎの記録もなかなか書けない。介護福祉士の国家試験の合格率は、日本人でも5割程度の難関だ。言葉で不利な候補者に、試験のハードルはかなり高い。

◇新年度予算10倍

 何をどう教えるかは、現場に任されている。新川ヴィーラを運営する新川老人福祉会の古金広・理事長代理は「日本語の指導方法や、勉強と勤務時間のバランスなどが分からない」と悩む。

 日本語講師を自分たちで探し、費用の多くは施設の持ち出しだ。試験を考えると勉強時間を増やせばいいが、その分の働き手が減ってしまう。

 候補者のあっせんを担う国際厚生事業団が昨年行った聞き取りでも、同様の悩みが全国で聞かれた。不満の声を受け、受け入れに関する国の新年度予算案には、今年度の10倍の約8億7千万円が盛り込まれた。講師料やテキスト代、語学学校への通学に使えるよう、1施設あたり約30万円、候補者には約12万~24万円が補助されることになる。

◇情報交換に努め

 それでも、受け入れ側の不安は尽きない。「せめて共通のテキストと、目指すべきレベルの基準を教えてほしい」と古金さん。

 富山では、受け入れ施設側の情報不足も課題だ。受け入れの数が少ない北陸では悩みを相談しあう環境にない。事業団に相談しても、「お宅の指導はいい方ですよ」と言われただけだったという。一方、候補者たちは、インターネットで全国の仲間と連絡を取り合い、情報交換に努めている。

【キーワード】

■EPAに基づく外国人の介護・看護候補者受け入れ 
2008年度からインドネシア人、09年度からフィリピン人の受け入れが始まり、これまでに国内全体でインドネシア人570人、フィリピン人310人を受け入れた。国際厚生事業団によると、県内は6人が働いている。母国ではケア資格を持っていても日本では無資格扱いとなるため、介護福祉士候補者は上限4年、看護師は3年の滞在期間内に国家試験に合格しなければならない。不合格なら帰国する。看護師試験は年に1回受験機会があるが、介護福祉士は4年間で1回だけ。

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