昨年の暮れ、一人娘が37歳で結婚しました。なかなか良縁に恵まれず、本人も私たちも年を重ねてしまいました。
チャペルで開かれる結婚式で夫は、80歳でバージンロードを歩くことになり、挙式当日まで家で何度も練習を繰り返しました。
以前、式の途中で花嫁さんが転倒したという話を聞き、いっそう不安が募りました。娘は父親に支えてもらうつもりが、自分が支えなくてはいけないのかと、いろいろ心配だったようです。
さて当日は、5分程の練習で本番となりました。私も心配で「うまく歩けますように」と神様に祈る思いでした。
25メートル程のバージンロードを神父さんの前まで導くのですが、3分の2くらいまで進んだところで立ち止まってしまいました。新郎に迎えに来てもらい、娘の背中をそっと押してバトンタッチしました。
夫は緊張と興奮で、途中で足が前に進まなくなってしまったようです。
練習通りにいかなかったのは残念でしたが、夫は80歳まで長生きして娘とバージンロードを歩く幸せをかみしめたことでしょう。
後で聞いたところ、「ただただ夢中だった」と申しておりました。
私たちが結婚するころにはなかったことですが、娘を持った喜びでした。
娘にはあの時の思いを忘れないで、良き人生を歩いてほしいと願っております。
毎日新聞 2010年1月19日 東京朝刊