屋根は飛び、電柱は根元から折れた。大型で勢力の強い台風18号は龍ケ崎市や土浦市で突風を発生させ、200棟以上の民家を襲った。「あまりに一瞬のことだった」。住民はがっくりと肩を落とした。水戸地方気象台は8日、両市の突風が「竜巻」とみられると発表した。
大型の台風18号の影響で県内では突風で転倒するなどして計13人が重軽傷を負った。
土浦市宍塚では午前5時ごろ、竜巻が発生し、1棟が全壊、10棟が半壊した。近くに住む無職女性(63)は割れた窓ガラスで手を負傷した。宍塚小学校と宍塚公民館を結ぶ南側一帯の被害が激しかった。
同じく竜巻に見舞われた龍ケ崎市では、大徳町を中心に北は野原(や・わら)町から南は佐沼町まで帯状に被害が確認された。5棟が半壊し、109棟が一部損壊した。この突風で龍ケ崎市では外で枝を切っていた男性(70)がはしごから落ちて頭部打撲と鎖骨骨折で重傷、民家の1階で就寝中の女性(22)が割れた窓ガラスで手を切るなど3人が軽傷を負った。
つくば市では道路を歩いていた女性(90)が風にあおられ転倒し、左手首と左足が骨折する重傷を負った。日立市では自宅裏の土砂が崩れ、物置2棟が全壊。3人が近くの公民館に自主避難した。
同日午前5時ごろには水戸地方気象台から、県内全域に竜巻注意情報が出されていた。同気象台によると午前4時32分ごろ土浦で最大瞬間風速が毎秒21メートルを観測。過去10年で最大だったという。
東京電力茨城支店によると、土浦市や龍ケ崎市を中心に突風による断線などで計1万1870軒が停電。土浦市宍塚地区では午前5時から約11時間停電した。
通勤や通学にも影響が出た。JR東日本水戸支社によると、JR常磐線特急は午前中から43本が運休した。また普通列車も上野―仙台間で上下線が運転を見合わせた。
土浦市宍塚地区。竜巻を受け折れた電柱には、倒壊した物置やトタンがくしゃくしゃになって巻き付いていた。
2階自室で寝ていた会社員の佐野聖美さん(28)は8日未明、窓ガラスのがたがた揺れる激しい音で跳び起きた。窓越しに外を見ると、薄暗い中で白っぽいものが見えた。何かが飛んでいるようだった。家全体が揺れた。怖くなって階下に避難しようと階段を下りかけたところ、2階の窓ガラスが突風でバーンと割れ、同時に部屋の間仕切りの戸が吹っ飛んだ。足がすくんだという。
須藤照夫さん(73)は、ゴーというすごい音を聞いた。一瞬、ふわーっと家全体が浮き上がるように感じた。雨がたたきつけるように降っていた。そのうち、庭先や前の畑に、自動車のボディーや瓦、トタンが次々と降ってきた。幅十数メートルのビニールハウスが倒壊。育てていた菊50鉢がだめになった。「来月の全国品評会に出品するつもりだった。残念です」と何度も受賞歴のある須藤さんは言った。
土浦宍塚郵便局は、屋根の半分ほどを失った。幸い、書類などには影響がなかったが、停電しているため、8日は臨時休業にした。近くの土浦中貫郵便局から応援にきた富島裕局長は「こんなにひどいとは思わなかった」と困惑していた。
「お母さん、車がひっくり返っているよ」。地震のように家が揺れ、目覚めたという龍ケ崎市大徳町の会社員、鈴木明美さん(54)。娘がそう叫ぶのを聞いて外に出ると、本当に自動車が仰向けに転がっていた。「バチバチ」という火花が散るような音も聞こえたという。
近くの農業、渡辺猛さん(56)は物置にしているハウスを見回り、自宅に帰ってくると「ミシミシ」という音が聞こえた。「気圧が下がったような感じで、揺れは十数秒ぐらい続いた」。はす向かいの家の瓦などが飛ばされていたので様子を見に行き、「119番通報」したという。
同市交通防災課によると、大徳町を中心に北は同市野原(や・わら)町から南は佐沼町まで東西に約200メートル、南北に約5キロにわたって被害が確認された。
同課は「被災地を地図に落とすと帯状に延びていることがわかった」と説明。被害発生当初から、竜巻が発生したと見ていた。