7月8日12時23分配信 産経新聞
安全性を確保した自転車に幼児2人を乗せる「3人乗り自転車」が7月、全国のほとんどの自治体で解禁された。子育て中の母親からの要望に応えて容認されたが、安全基準を満たす自転車は高価なうえ種類が少なく、販売業者、客の双方に“様子見”ムードも広がっている。その打開策となりそうなのが、自治体によるレンタル制度や購入費補助。3人乗り自転車普及のカギは、各自治体の取り組みにかかっているといえそうだ。(道丸摩耶)
◆使うのは2~3年
6月29日、東京都世田谷区の警視庁交通安全教育センターで、区内の母子30組が参加した「子育てママ自転車安全教室」が開かれた。目的は3人乗りの際のルールを学んでもらうことと、基準を満たした自転車の安全性を体感してもらうこと。参加者からは「重心が下になっていて安定して運転できた」と好意的な声が相次いだ。
しかし、その普及には課題も多い。最もネックとなるのが、自転車の価格だ。
ブリヂストンサイクルやヤマハ発動機など、すでに販売を開始した大手メーカーの自転車は、約5万円。電動アシスト機能付きとなると、10万円以上もする。
2人の子供を育てる横浜市瀬谷区の会社員、與名本香奈さん(32)は「子供の安全はお金に換えられないが、自転車に子供2人を乗せる期間はせいぜい2~3年。そう考えるとやはり高い」と、“母親の本音”を明かす。
そこで期待されるのが、自治体によるレンタル事業や購入費の補助だ。
◆購入補助まだわずか
東京都三鷹市は今秋をめどに、3人乗り自転車のレンタル事業を開始する。今年度の当初予算に300万円を計上、メーカー各社の自転車が出そろった段階で車種を選定するという。貸出期間や対象者の条件は未定だが、市内の幼稚園に子供を通わせる親へのアンケートで、要望を反映させる計画だ。
同市道路交通課は「3人乗り自転車は高価なため、購入を迷うケースも多いだろう。レンタル制度で乗り心地を確認し、普及につなげていきたい」と狙いを語る。
一方、前橋市は今月から、保育所や幼稚園の送迎に使用する市内居住者を対象に、自転車の購入費用の半額(上限4万円)を助成する制度を始めた。同市こども課は「自転車の普及にはまず、制度の周知が必要となる」と力を込める。
チャイルドシート義務化のときのような助成制度を始めた自治体はまだわずかだが、先行自治体の取り組みは全国の自治体から注目されている。こうした制度は自転車普及の追い風となるだけでなく、ひいては子育て支援につながるからだ。
「何らかの助成ができないか検討を始めている」(愛知県豊田市)など複数の自治体が助成を検討中で、制度の広がりに期待がかかる。
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【用語解説】3人乗り自転車
6歳未満の幼児2人を乗せても十分な強度があり、安定性が確保されているなど警察庁の安全基準6要件を満たした自転車。警察庁の検討委員会の報告を受け、全国の各公安委員会が規則改正を行い、解禁された。要件を満たした自転車には、自転車協会(東京都港区)の「BAA」マークか製品安全協会(台東区)の「SG」マークが張られる。基準外の自転車で3人乗りをした場合は罰金もあり得るが、見分け方が難しいという課題もあり、警察庁は「当面は指導・警告にとどめる」としている。
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■3人乗り自転車の6要件
(1)幼児2人を同乗させても十分な強度がある
(2)幼児2人を同乗させても十分な制動性能がある
(3)駐輪時の転倒防止のための操作性、安全性を確保する
(4)自転車のフレームや幼児用座席が取り付けられるハンドルなどに十分な剛性がある
(5)走行中にハンドル操作に影響が出るような振動が発生しない
(6)発進時、走行時、押し歩き時および停止時の操縦性、操作性および安定性が確保されている