3月26日19時24分配信 医療介護CBニュース
日本褥瘡学会は3月20日、神奈川県小田原市で神奈川在宅セミナーを開催した。医師や看護師をはじめ、ケアマネジャーなど介護関係者に向けて褥瘡の治療とケアについての説明が行われ、患者にかかわる関係者の連携の重要性が確認された。
セミナーでは、聖マリアンナ医科大横浜市西部病院の皮膚・排泄ケア認定看護師の渡部寛子氏が講演した。
渡部氏は褥瘡予防について、要介護度が3以上か、日常生活自立度がランクBやCの人には、褥瘡予防プランの検討も必要になるとし、本人や家族、ヘルパーに褥瘡についての指導を行うほか、ケアの状況や皮膚損傷などがないかを記録に残し、在宅ケアのチームで共有することを提案している。
頭側挙上(ギャッチアップ)をする際は、特に褥瘡ができやすいことから注意が必要と指摘。頭を上げた後と下げた後には、背中のずれを取り、かかとや太ももなどに掛かった「圧」を取り除く「背抜き」が欠かせないと説明した。
また、エアマットレスなど体圧分散寝具を使用する場合は、利用者の体重などを考慮しながら適切な「圧」を保つよう求めた。実際にマットに触れて、硬さや形に異常がないかを確認するようアドバイスし、「機械は絶対ではなく、故障もあり得るので、必ずチェックする。家族にも機械について説明しておけば、不具合の早期発見につながる」と指摘した。また、ベッドの上に体圧分散寝具を置くと、寝具の厚みによって体が手すりからはみ出しやすくなるため、転倒・転落予防を行うよう注意を促した。
渡部氏は、在宅ケアにかかわる職種が、家族や療養者本人にも褥瘡の原因と予防(治療)方法を伝えることが大切とし、連絡ノートを作って全職種が情報を共有できるようにすることも効果的だと説明した。
病院から在宅に移る際の褥瘡患者の治療とケアについて講演したおかべ形成・整形外科クリニック(小田原市)の岡部勝行氏は、チーム医療の重要性を指摘。褥瘡対策のチームでは、医師が全体を統括するが、ケアの中心は看護師になるほか、栄養士や薬剤師、理学療法士などにも重要な役割があるとした。在宅に移った場合、ケアマネジャーの役割が重要になることから、褥瘡予防についてしっかり理解してほしいと呼び掛けた。
褥瘡患者の退院について岡部氏は、「病院では最低でも、褥瘡を壊死組織のない肉芽組織になるまで治癒させることが必要。そうしなければ、家族が非常に困惑することになる」と指摘。在宅で一緒に住む人が処置できる状態にして、家に帰すことを考えなければならないとした。
体圧分散寝具については、自分で体位変換ができなければ圧変換型のエアマットが、骨突出部がある患者については高機能圧変換型エアマットが効果的だという。このほか、寝たきり患者の関節の拘縮予防のために、関節可動域訓練を行うよう求めた。
寝たきりにならないよう、車いすやベッドアップの姿勢で長時間いることで、仙尾部褥瘡や尾骨部褥瘡が増加しているという。岡部氏は、座位、半座位とも1回2時間までにとどめ、その後臥位を30分取ることを勧めた。
岡部氏は、車いすの患者の褥瘡予防について、乗り移りの動作をゆっくりと行うよう求めた。乗り移りがしやすい車いすや、車いす専用のクッションも、重症の人に効果的だと説明した。
藤沢市民病院の形成外科医師の矢吹雄一郎氏は、がん終末期在宅療養における連携について考えさせられた褥瘡症例として、63歳の乳がん終末期の女性患者のケースを報告。患者には、外来での化学療法と麻薬によるがん性疼痛の管理が行われていたが、車いすの利用やADLの低下に伴って、仙骨部に褥瘡ができたという。
褥瘡の手術を終えて退院する際は、再発予防のための環境の調整を行ったが、半年後に患者の心理不安が強くなった。矢吹氏は「麻薬系の鎮痛剤をたくさん使うことにより、混乱状態が続き、さらに鎮痛剤を使ってしまう悪循環に陥った」と説明した。
訪問診療を開始したが、問題は解決できず、同病院形成外科に入院することになった。入院35日目にホスピスへ転院し、その10日後に亡くなったという。
矢吹氏は、褥瘡の問題というより、医療者と患者家族のコミュニケーション不足のほか、患者の心理的不安に専門的に対応できる医師がいないことなどを指摘。「治療方針の変更もスムーズにいかず、ホスピスへの認識不足、在宅における連携不足や説明不足があった」と振り返った。このケースによって、院内外のサポートが必要であると実感したといい、「地域基幹病院、在宅医療、療養型病院がお互いに連携していかなければならない」と述べた。
日本褥瘡学会の神奈川県支部では、褥瘡の手術ができる医療機関などを示した「地域連携と褥瘡治療ケアマップ」(仮称)の作成を計画しており、褥瘡にかかわる医療機関などを調査していく予定だという。