フィットネスクラブで介護予防 広がる民間活用

要介護・要支援になる可能性のある高齢者を対象に行う、自治体の介護予防事業に、民間のフィットネスクラブを活用する取り組みが広がっている。交通の便のよい場所にあることが多い上、培ったノウハウを生かした特色のあるプログラムが高齢者を引きつける。クラブ側には、設備の有効活用を図るメリットもある。(飯田祐子、写真も)

マシンで筋力アップ
 円状に並べられたトレーニングマシンに乗った高齢の女性たちが、軽快な音楽に合わせ、ゆっくりと腕や足を動かす。台上での足踏みを挟みながら、30秒ごとに一斉に左隣のマシンに移動。6種類のマシンを3周ほど回った後、ストレッチを行い、プログラム終了だ。

 広島市の「カーブス横川メディカルプラザ」は元々、女性専用のフィットネスクラブ。市の委託を受け、平日の昼休みの時間を利用して、「転倒予防教室」を開いている。様々なマシンによる筋力トレーニングと有酸素運動の足踏みを交互に行い、脂肪燃焼と筋力アップの効果がある「サーキットトレーニング」を高齢者向けにアレンジ。筋肉を動かすスピードで負荷を調節できる油圧式のトレーニングマシンが、高齢者にも使いやすいと好評だ。

 市内の主婦、藤川紀子さん(69)は、骨粗しょう症と診断され、筋力低下による転倒を予防するため、参加。「これまでは運動を全くしていなかったが、回を重ねるうちに体が軽くなってきた。今後は、夫と一緒に市のスポーツセンターで筋トレを続けたい」と話す。

利用率もアップ
 同市は昨年から、将来的に要介護状態になる可能性が高い特定高齢者を対象とした介護予防事業を、市内に店舗を持つ複数のフィットネスクラブに委託している。同市高齢福祉課では、「立地がよく通いやすいうえ、それぞれ、マシンや運動プログラムに特色があり、高齢者が自分に合ったクラブを選ぶことができる」と利点を挙げる。参加者も増加傾向という。

 自治体が、介護予防事業に民間のフィットネスクラブを利用する動きは、各地で広がっている。フィットネスクラブチェーン「カーブス」を展開する「カーブスジャパン」(本社・東京)は、広島市のほか、静岡市、千葉県船橋市など、9自治体から委託を受けている。大手の「ルネサンス」(同)も、東京都北区、千代田区などから受託、「東急スポーツオアシス」(同)、「セントラルスポーツ」(同)でも自治体の介護予防事業に取り組んでいる。

 転倒予防などに有効な筋力トレーニングは、介護予防の大きな柱だが、使い慣れない器具がハードルとなり、高齢者は参加しづらいといった声も根強い。自治体の介護予防事業をきっかけに、高齢者がフィットネスクラブに通うようになれば、介護予防の取り組みの広がりが期待できる。クラブにとっては、平日の日中など一般客が少ない時間帯の利用率アップも見込める。

 東京都健康長寿医療センター研究所の河合恒研究員は、「フィットネスクラブの活用は、介護予防の普及啓発や、運動を継続できる場所を地域に整備するという点で重要だ。ただし、民間のクラブで、サービスを安全に行い、質を保つためには、保健師などの専門職の配置や、人材育成のための研修など、自治体の支援が必要だ」と話している。

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