改正建築基準法、施行1年 社会に大きな混乱 建築関係者に多くの犠牲と負担

 改正建築基準法の施行から6月20日でちょうど1年が経過した。建築確認・検査の厳格化などにより、耐震偽装の再発防止を目指したが、基準類の制定の遅れと関係者への周知不足が相まって、社会全体に大きな混乱を巻き起こしてしまった。この1年の間にどんな事態が生じ、どのような対策が講じられてきたのか。あらためて振り返る。
【建築着工が激減】
 建築着工の推移を見ると、改正法がもたらした影響の大きさは一目瞭然(りょうぜん)だ。新設住宅着工戸数は施行直後の07年7月に前年同月と比べ23・4%減と大幅に落ち込み、8月に43%減、そして9月に44%減という最大の下げ幅を記録した。それ以降は徐々に回復の傾向を示したものの、今年4月に入っても8・7%減と、依然としてマイナスを続けている。2007年度全体では、前年度比19・4%減の103万5598戸と、40年ぶりに110万戸を割り込んだ。
【増える改正法関連倒産】
 建築着工の激減に比例して、建設会社や不動産会社の仕事は減り、経営そのものを揺るがす事態になった。帝国データバンクの調べでは、改正建築基準法に絡んだ倒産が07年10月から今年5月までの8カ月間で81件発生し、負債総額は1174億円余りに達した。4月に14件、5月には15件と、沈静化どころか増加の気配さえ見せている。しかも、これは改正法が主因となった倒産を集計したものだけに、あくまで氷山の一角に過ぎず、実態はさらに厳しいとみられる。
【不十分な設計報酬】
 最悪のケースには至らないまでも、建築関係者を取り巻く経営環境は深刻を極めている。設計事務所の場合、業務量が大幅に増えたにもかかわらず、それに見合った十分な報酬が得られていないのが実情だ。
 日本建築士事務所協会連合会が5月にまとめた実態調査によると、特に構造設計の業務量は改正前と比べおおむね2倍以上になった。構造設計の引受先が見つからず、業務に支障を来している事務所も多い。一方で、業務に見合う報酬は「まったく得られていない」が約7割だった。
【専門工事業も苦境に】
 専門工事業の苦しみも続く。国交省が実施した調査では、技能労働者の過剰感が近年になく高まっており、大半がその要因を「改正建築基準法施行により工事が減少したため」と回答。「発注予定物件が確認の遅れと資材の高騰で中止になった」「手持ちの工事量は例年の3割減」といった悲痛な声が相次ぎ、やむなく従業員の解雇に踏み切るところも増えている。
【対応に追われた国交省】
 もちろん、国もただ手をこまぬいていたわけではない。国土交通省は建築着工の減少が判明して以降、円滑な施行に向けた対策を次々に打ち出した。中小企業庁と連携して、資金繰りに苦しむ建築関連の中小企業者をセーフティネット保証などの対象に追加するなどの救済措置も講じた。
 建築確認手続きのボトルネックと指摘された構造計算適合性判定の円滑化に向けては、判定員候補を2000人以上確保するとともに、NTTデータの構造計算プログラムを大臣認定した。
 あらかじめ構造方法などの認定を受けることで構造関係審査を簡略化できる図書省略認定制度の活用を呼び掛けた。また、既存不適格建築物の段階的な改修を認める全体計画認定制度の弾力的な運用により増改築も容易にした。
 5月には、実務者からの要望が強かった建築設備や非構造部材などの軽微な変更の基準を明確化するため、施行規則を見直した。国土交通省住宅局の水流潤太郎建築指導課長は本紙の取材に対し、「今後も手を緩めることなく、施行の円滑化に向けた対策に努める」との決意を示した。
【教訓を踏まえ】
 手続きの円滑化などにより、統計上の数値からは改正法の影響が徐々に消えていくことだろう。さらにもう少し先を見通せば、設計図書の完成度とともに建物の質の向上にもつながっていくのかもしれない。ただし、それは混乱の中で強いられた建築関係者の犠牲と負担、そして社会的な損失の上に成り立っているのだ。改正建築士法、住宅瑕疵(かし)担保責任法の施行に当たっては、この事実を肝に銘じ万全を期さなければならない。

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あの耐震偽装事件で、多くの耐震偽装物件の購入者の方や建築業者が、迷惑をこうむってしまいました。

本当に腹立たしくてしょうがないです。

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